「骨盤臓器脱」の大きな原因は出産(経腟分娩)によって骨盤の底を支える筋肉(骨盤底筋群)やその中の神経が傷ついて緩むこと (※写真はイメージ)
「骨盤臓器脱」の大きな原因は出産(経腟分娩)によって骨盤の底を支える筋肉(骨盤底筋群)やその中の神経が傷ついて緩むこと (※写真はイメージ)

 骨盤の底にある筋肉が緩むことで膀胱や子宮、直腸などが腟口から出てしまう骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)。中高年を中心に多くの女性を悩ませる病気だが、2016年4月に腹腔鏡下手術が保険適用となり、選択の幅が広がった。

 骨盤臓器脱は、骨盤内の膀胱や子宮、直腸などの臓器が腟壁を押す形で下がり、腟から出てきてしまう病気だ。出てくる臓器により、膀胱瘤、子宮脱、直腸瘤などに分かれ、これらが単独または同時に出現する。

 症状は、股間に異物を感じる、下着とすれて炎症を起こし痛みが出るなどの直接的なもののほか、排尿や排便に問題が表れる間接的なものがある。

 大きな原因は出産(経腟分娩)によって骨盤の底を支える筋肉(骨盤底筋群)やその中の神経が傷ついて緩むこと。それにより臓器を吊るしている靭帯や筋膜が伸びてしまい、骨盤内の臓器のバランスが崩れ、臓器が腟から出てきてしまう。女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が閉経前後に低下することも要因となる。

 さらに、肥満や便秘があったり、重い荷物を持つなどで腹圧がよくかかる生活をしていたりすると、リスクが増大する。

 治療法は手術が中心。2010年に保険適用となった「経腟メッシュ手術」(TVM)が主流で成績もよい。また、14年には膀胱瘤の、16年4月にはすべての骨盤臓器脱に対する「腹腔鏡下仙骨腟固定術」(LSC)が保険適用となった。

 千葉県市原市に住む神崎節子さん(仮名・80歳)は、約2年前に肛門から直腸が出てしまう直腸脱が見られるようになり、おなかに少し力を入れるだけで尿もれが起こるようになった。近所の肛門科を受診したが、「高齢なので様子を見ましょう」と言われ、積極的な治療はしなかった。ところが症状は徐々に悪化、便ももれるようになり、尿が出にくくなってきた。

 神崎さんは心配した娘に付き添われて、今年4月に亀田総合病院を訪れた。担当した泌尿器科部長・内視鏡下手術センター長の安倍弘和医師は、問診と視診、超音波検査などをした。すると直腸脱にくわえ、骨盤臓器脱のひとつ、膀胱瘤の併発が発覚。尿道が折れ曲がった状態で排尿がほとんどできなくなっていたため、水腎症も起こしていた。

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