西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、日本ハム大谷翔平投手とソフトバンク・松坂大輔投手を起用することの難しさを指摘する。

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 ソフトバンクと日本ハムの壮絶なデッドヒートが続く。ここにきて、日本ハム・大谷翔平の起用法が難しくなってきた。球宴直前に右手中指のマメの影響で投げられなくなり、打者に専念してきた。だが、このまま投げないわけにもいかないだろうし、投手として復帰するにも「壁」がある。

 大谷が最後に登板したのは、7月24日のオリックス戦(札幌ドーム)。中継ぎで、1イニングだけだった。それから1カ月以上も登板していないから、次に登板する際、トップコンディションとはいかない。先発登板ではリスクが大きい。

 さらに、打者でこれだけ中心的な役割を担っていると、先発調整のために2軍戦に投げさせるような時間もない。栗山監督は難しい判断が迫られる。

 DHで先発出場させ、試合の勝敗が決したところで短いイニングを投げさせて調整を図るという方法は考えられる。ただ、試合をこなしながらの作業だから、ブルペン投球の時間を作れるかどうか。試合の展開次第なので、狙い通りの試合で登板させられるかどうかもわからない。

 
 打者に専念させればいいという意見もあるかもしれないが、ポストシーズンを見据えると、そうもいかない。短期決戦では、先発投手の勝敗の比重がより高まるからだ。特にリーグ優勝を逃した場合、クライマックスシリーズ(CS)で3試合制のファーストステージを戦う。初戦をとる重要性はいうまでもないよ。3位が予想されるロッテとの対戦では、涌井、石川の二枚看板と投げ合うことになる。戦略上、「先発・大谷」は欠かせないピースだ。

 栗山監督はどうやってポストシーズンという大一番で先発できる状態にしていくのか。投手コーチとともに知恵を絞ることになる。リーグ優勝を狙う中で、大谷の調整の判断を誤ることはできない。もし打者に専念させるというのであれば、早めに本人に伝え、納得させることも必要だ。投手はそれだけ繊細である。

 一方のソフトバンク。松坂大輔が8月28日の3軍戦で、移籍後最速の147キロを記録し、調子を上げてきたとの報道を目にした。

 工藤監督も「スピードも出ているという話を聞いた。2、3週間後に調整できて、順調にいけば(先発の)バックアップという形で、今シーズン中に投げてもらうように調整してもらう」と話している。もちろん、これには大輔に対する公康流の優しさがあるだろう。優勝争いがもつれた場合、はたして大輔に大事なマウンドを託せるか。現実的には順位決定後の消化試合で、先発できるかどうかを見極めていくことになるだろう。

 大輔は、監督の言葉を意気に感じなければならない。「1軍登板」という明確な目標をもって取り組むことができる。シーズン最終盤で好投すれば、CS、日本シリーズの先発要員に割って入る可能性もゼロではない。そのためには、相手を抑えるための投球と、肩のスタミナの両立が必要だ。ここ2年は試合で投げたとしても、リハビリ登板でしかなかった。自分の体を意識して投げるのと、相手を抑えることを考えて投げるのは訳が違う。

 ソフトバンクと日本ハム。優勝争いの先にある10月を見据えた起用にも注目したい。

週刊朝日 2016年9月16日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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