(c)2016 TOHO CO.,LTD.
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 緊急事態を想起させるシーンが多く描かれている大ヒット上映中の「シン・ゴジラ」。日本の危機管理を考えさせるその内容に、石破茂・元防衛相が現実世界における日本の安全保障問題について口を開いた。

 都民など360万人もの住民が避難する設定も描かれる。石破氏は自ら手がけた国民保護法についてこんな思いを漏らした。

石破:私がいわゆる有事法制において、どうしても国民保護法を整備したかったのは、沖縄戦や東京大空襲で大勢の民間人が亡くなったという過去の過ちがあるからです。当時の日本政府には、「民間人を戦場に置いてはいけない」という発想がなかったんです。いちおう防空法という住民避難のための法律はありましたが、所管が内務省なのか陸軍省なのかよくわからなくてお互い押し付け合った結果、有効な避難ができませんでした。そもそも「民間人を守る」という考え自体も希薄でした。今回のゴジラはどんどん巨大化するし、動きもけっこう速い。映画にあったような避難の対応が、想定のない現状でできるとは私には思えません。

 避難といえば、現実にはゴジラ上陸よりも、北朝鮮の核ミサイルの危機のほうが深刻です。そのための国民保護計画ですが、これに基づく訓練は最近おろそかになっていないでしょうか。

――官邸の総理執務室などで、閣僚や官僚たちの会議のシーンが丁寧に描写されていた。映画のように活発な議論が行われる政治的素地はあるのだろうか。

石破:議論できるだけの知見がなければ、官僚に対して「何とかしろ!」と怒鳴って終わりです。しかし私たち国会議員は「国民の代表」として、この国を動かす根本的な仕組みである法律を作ってくださいと、負託されているわけです。主権者たる国民の代表だからこそ、自衛隊という実力集団の統制も負託されている。であれば、映画のように最初から「超法規」と言ってしまうのは一種の自己否定ともなりかねない。自衛隊法、防衛省設置法、有事法制、安保法、日米安保条約、日米地位協定は、主権者の負託を受けて作ったものなのですから、国会議員も閣僚も文民統制の主体として、法律や運用について高い知識を持つことが求められます。いざというとき、映画のような白熱した議論が行われると信じますけどね。

――劇中、早口で飛び交う法律や防衛の専門用語。恋愛ドラマの要素は影を潜め、官邸中心に描かれる政治ドラマでもある。政治家は映画からどんなメッセージを受け取るのか。

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