石破:政治家は国民から選ばれているのだから、政治家も国民もみんなで見て考えるべきだ、と朝日新聞や週刊朝日が書いてくれたら、空気が変わるみたいなところがあるんじゃないんですか。三島由紀夫の小説に『美しい星』という異色の作品があります。UFOが出てきて、三島の作品の中でもっとも受けなかったものの一つだと思います。文学界でも「三島がそんなの書くなんて」と言われてしまったりします。

 日本ではどうも、UFOとかゴジラとか、一般の人が興味のあるようなフィクションでも、永田町や霞が関で語ることがなんとなくタブーみたいなところがありますね。やっぱり私みたいに揚げ足取られるから嫌なんでしょうね。

――閣僚の一人が日米安保条約を適用して、害獣駆除を在日米軍に肩代わりしてもらうことを提案すると、防衛相が毅然(きぜん)としてこう言い放つ。「いえ、まずこの国の政府と自衛隊が動くべきです。安保条約があっても米国はあくまで支援の立場です」。防衛相のこの発言を、石破氏は高く評価する。

石破:あの防衛大臣のセリフは正しい。よくわかっていると思いました。例えば、尖閣諸島で武力攻撃を受けたとして、当初から日米安保条約が発動されると考えるのは間違いです。以前、クリントン前国務長官が「日米安保条約の適用対象」と明言しましたが、だからといっていきなり米軍が出動することは考えられません。まずは個別的自衛権で、日本が自ら対処すべきです。

 総理大臣は優柔不断な態度を見せながらも、だんだんとしっかりしていくところがいいですね。防衛大臣や総理大臣というものは、いかなる事態が起きても対応できるように、常に訓練を積んでおかないといかんということでしょう。

――元防衛相が、映画から受けた教訓とは何だろう。

石破:どんな政策にもリスクはあります。だから政治として、あらゆるリスクを認識したうえで政策を進めないといけない、ということだと思います。第2次大戦で帝国陸軍がリスクを国民に知らせないまま無謀な戦争に突き進んだ。これは有名な話ですが、海軍だって同罪だったと私は思います。山本五十六・連合艦隊司令長官は近衛文麿首相に日米開戦の見通しを聞かれ、「はじめの1年や1年半は存分に暴れてごらんにいれます。しかし、その先は保証できません」と言い、そのとおりになりました。

 同じ過ちを繰り返さないためには、精緻なリスク分析が必要です。誰だってノーリスクの絵空事を説きたくなるし、極限事案など考えたくもない。しかしリスク分析から目を背けることは、あれほど犠牲を払ってくれた先人の教訓としても、あってはならないと私は思っているのです。

週刊朝日  2016年9月9日号より抜粋