薬物療法は、抗精神病薬を服用する。統合失調症の症状は、神経細胞同士の情報伝達を担う「ドーパミン」の働きが悪くなるのが原因と考えられており、抗精神病薬はこのドーパミンの働き方を調節することで、幻覚や妄想などの症状を取り除く。中でも1990年代から使われるようになった「非定型抗精神病薬」は、比較的副作用が少なく、使いやすい。また、うつ症状にも効果があると言われている。

 統合失調症では症状による二次的障害として、生活を送るのに必要な能力が損なわれる。またそのために、仕事ができなくなる、結婚ができない、といった社会的不利益を被る三次的障害もある。

 そこで、薬物療法と組み合わせて心理社会療法を受け、通常の生活や社会復帰を目指す。作業療法や生活技能訓練などがある。医療機関によって受けられる療法は異なるが、精神科デイケアなどに含まれることが多い。

 ところが、これらの治療を受けても、実際には通常の生活や社会復帰ができない患者は多い。その原因として最近注目されているのが、記憶や注意、遂行機能といった認知機能の障害だ。

「統合失調症の症状の中でも、社会生活に最も大きな影響を及ぼしているのが認知機能障害です」と国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所所長の中込和幸医師は言う。認知機能が低下するために、薬物療法などで症状が落ち着いても、生活に支障が出るのだ。従来の治療では、認知機能の向上は難しい。

 そこで中込医師らは、認知機能を改善して、社会復帰につなげるための認知機能リハビリテーションのプログラムを導入し、医師や作業療法士ら向けの研修プログラムを実施している。

週刊朝日  2016年8月19日号より抜粋