妻:とにかくヘンな人でした。喜怒哀楽を出さないし。笑っていると、「あ、福里さんが笑っている」って(笑)。私だけではなくて、部署の人みんながそう思っていました。

夫:新入社員時代は仕事もなく、もっぱら会社で読書をしていました……。でも、会社が私を採用してくれたんだから、と穏やかな気持ちで過ごしていました。自分には才能がない、と決めるとラクになりましたね。それでも、クリエイティブ部門から異動させられることもないし、給料だけもらって、ボーッとしているのもそんなに悪くないなと……(笑)。ちょうどバブルもはじけましたし、とにかく20代いっぱい地味にひっそりしていたんです。

妻:出会ってから1年後に、私が電通をやめることになり、送別会をしてもらったんです。そのときのカラオケで、「えっ!」ということが……。

夫:「傘がない」?

妻:いえいえ、「傘がない」は単に下手で(笑)。福里がドラマ「スクール・ウォーズ」の主題歌を歌ったとき、冒頭の説明から始まってドラマのナレーションも入れて歌うんですよ。えっ、こんな人だったの?って。もう、びっくりしました。

夫:はい、カラオケはコミュニケーション能力とは別です。別に対話しなくても、自分がマイクを持った瞬間から一方的に提示するだけですから。

妻:それからですね。私がグループでごはん食べにいくのに誘ったり、次第に言葉を交わすようになったんです。話してみると、面白いし、頭がいい。地味で浮いてるのは相変わらずでしたが、私にはない物事を俯瞰する能力もある人だと。段々、興味を持っていきました。

夫:私ですか? 彼女は面白い人だなと思いましたね。毒舌を中心とした人の悪口も独特で面白い。これは今でも変わらないから、「また言ってるな」と笑って聞いてます(笑)。

週刊朝日 2016年7月15日号より抜粋