独フォルクスワーゲンのデータ偽装は排ガス規制逃れだった。燃費も同じだ。動力性能、製造コスト、燃費は、あちらを立てればこちらが立たず。期限とコストに制約がある中、目標が定められる。「できません」と技術者は言えない。

 自動車業界では「売れるクルマが良いクルマ」と言われる。技術者が胸を張るクルマが、売れるとは限らない。受注生産で巨大企業になった三菱重工の技術と人脈を引く三菱自動車の病巣は「権威主義と頭の固い経営者」と言われていた。やわらか頭で「売れるクルマ」を造らなければ「良いクルマ」も造れなくなる。それが市場経済だ。

 日本の自動車市場は軽自動車が4割ほど。激戦に勝ち残るには低価格と低燃費が欠かせない。ダイハツ、スズキ、ホンダの三つどもえにはじき飛ばされた三菱の市場シェアは3.2%(2015年)。限られた開発体制で立ち向かう技術者が最後にすがったのが「データ改ざん」だったとしたら、あまりにも悲しい。

 三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行で支えてきた体制は限界だろう。「自動車業界のシャープ」になるかもしれない。(ジャーナリスト・山田厚史)

週刊朝日  2016年5月6-13日号