夫:誰がそんな辛気臭いことしてますか。茶室は座敷牢やないんですから。稽古場で怒鳴ってます(笑)。

妻:みなさん、意外に思われるようですけど、お茶の家元というのは、完全に男の仕事であり、男が伝える世界なんですね。女は、ふだん稽古場にも入りません。初釜のときはご挨拶に出たりしますけど、表立ってすることはないんです。ですから、いたって気楽なんです(笑)。

――茶道に関わり三千家に出入りする、千家十職(じっしょく)といわれる塗師(ぬし)・指物師など10の「職家」の人々との交渉、指示などもすべて家元の仕事。だが、茶道を離れると、ふつうの夫婦で、ふつうの家族。行き違いもあるが、それがまた楽しいようで。

妻:私、結婚して3、4年したとき、「ほんまの親子ですか」と聞いたことがありましたよね。

夫:そうやったね。「本当のお父さんですか」って。というのも、私と父は、父子である前に、師匠と弟子です。父の言わはることが絶対ですから、たとえ間違っていても「はい」であって、口ごたえはできない。

妻:稽古場でならわかりますけど、食卓の会話でも、そうなんですもの(笑)。

夫:私がそうしないことには収まらんということもあったんや。母が家付き娘でしょう。息子くらいは父の言うこと聞いてやらんと、親父の沽券に関わるやないですか(笑)。

妻:今、あなたと息子の宗屋を見ていますと、しみじみ時代は変わったと思いますね。

夫:そうやろ。息子ときたら、この私に意見しますからね。えらい度胸やな、たいしたもんやな、俺にはできんことやった、と思うて、腹立てるのも忘れます(笑)。

週刊朝日 2016年3月18日号より抜粋