「金にならないつて言葉で思い出したけど日本の学問のやり方はいけないねえ、商売人になるというと、まず経済学。そのくせ、本当の経済は知つていないよ。大学の教育なんてものは一つのものを学んで、そのことからどうやつて事物を研究してゆくかと云う能力を教える教育でなきや」

「商売人になる奴が経済学、政治家になる奴が法律学なんて大間違いなんだよ」(週刊サンケイ、1953年11月29日号)

 仕事上、私が英国の外交官やビジネスマンに会って驚くのは学生時代に歴史や哲学を専攻した者が多い事だ。それはジャーナリストも同様で、物事を多角的かつ体系的に見る訓練が重視される。

 一方で今年6月、わが国の文部科学省は国立大学に人文社会科学系の学部などの廃止や社会的要請の高い分野への転換を求める通知を出した。

 これに対して日本学術会議は7月、通知を批判する声明を発表した。

 グローバル人材とは単に国際競争力でなく、「人類の多様な文化や歴史を踏まえ、宗教や民族の違いなど文化的多様性を尊重しつつ、広く世界の人びとと交わり貢献することができるような人材でなければならない」という。

 時代に応じて大学のカリキュラムを変えるのは必要かもしれない。だが欧州中世史を学んだ白洲が占領期、GHQとの折衝に活躍したのは興味深い。

 その後、白洲は海外の要人と個人的パイプを築くが、米ロックフェラー財閥のジョン・ロックフェラー三世、英金融界の重鎮シグムンド・ウォーバーグ卿、国際石油資本ロイヤル・ダッチ・シェルのジョン・ラウドン会長など錚々たる名が並んだ。

 彼らと交わした書簡を読むと、単に社交儀礼でなく家族ぐるみの濃密な関係だったのが分かる。それは商売上の付き合いでなく、若い頃から蓄積した教養があってこそ可能だった。

(ジャーナリスト 徳本栄一郎)

週刊朝日 2015年11月13日号より抜粋