毎回の作業は2時間。耕して畝を作り、種や苗を植えて水をやっては、雑草を抜く。芽やつるが伸びて、実がなると「わくわく」した。汗をかくうちにダイエットへの意欲もわき、農作業と並行して筋トレや散歩や食事の見直しをし、適正体重に戻ったという。

「野菜が育つのと同時に、自分が変わるのもはっきりわかったんです」

 この日は、ゆきおさんの両親がバーベキューに招待されていたのだが、「楽しそうだな」「明るくなったわね」と息子の姿に少し驚いた様子だった。ゆきおさんは土を触るうちに人に会うのが苦でなくなり、8月には事務系の派遣会社の試験を受けて見事パスし、9月から社会復帰した。

 農スクールの主宰者で野菜作りを教える小島希世子さんによれば、こうした変化は珍しくないという。

「土や風、作物や虫に触れると浮世を忘れた感じでリラックスできる。体を使って健康になるし、自分に向き合うことができるのです」

 このスクールでは作業後にその日の感想を皆の前で話し、さらにワークシートに農作業で気付いたことやよかった点などを記録して小島さんに提出する。その内容から状態や変化を把握することができるそうだ。

 65歳の男性は、川崎市の高齢者支援団体、NPOふれんでぃが経営する施設から通う、生活保護受給者だ。ナスを採りながら、男性がぼそっと話してくれた。

「数年前に職を失い、離婚して家もなくなった。自分がいけないんだけど、土を触ってるとぜんぶ忘れられるんだ」

次のページ