もともとこの農スクールは、“働きたいのに働けない人を、働き手のない農業につなぐ”という小島さんの就農への思いから出発している。

「2008年に家庭菜園塾を作り、模索してきました。今は高齢者支援やニート支援のNPOと提携し、畑作業を経て社会に戻る人も出てきました」(小島さん)

 08年以来、農スクールを卒業した人は男女合わせて約60人。20人が就職し、うち5人が農業関係に勤め、野菜などを作り続けている。

「ニートだった男性が農園に勤め、ふらっと私の元に来たんです。それだけでも嬉しいけど、自分で稼いだお金でうちの畑の野菜を買っていってくれました」(同)

 思いがしっかりつながったのだ。

 園芸や農作業が人の福祉や健康などにもたらす効果の調査研究をする日本園芸福祉普及協会の事務局長・粕谷芳則さんは、こう話す。

「農・園芸は多彩な作業と知恵を必要とします。百姓という言葉も、もともと百の職という意味ですし、ありとあらゆる役割がそこにはあるわけです」

 力仕事から細かな作業まで、どんな人も能力を発揮できる懐の深さが農にはあり、努力が実ることで自信を得たり意欲を持てるようになると粕谷さんは言う。

「海外では農・園芸作業により血圧や脈拍が下がったという報告があり、機能回復や精神安定の面で昔から注目されてきました」

 アメリカではベトナム戦争後、心身が傷ついた兵士を癒やすために、緑色の植物を使った療法が脚光を浴びたという。これは血の赤と反対色(補色)の緑を見せることで、凄惨な残像を忘れさせようという試みだった。

「植物そのものに興味を持たせるようにした療法もあり、枕元に豆の種を置いて、背中を痛めた人が豆の成長を見たくて寝返りを打てるようになったという例があります」(粕谷さん)

週刊朝日 2015年10月30日号より抜粋