※イメージ写真
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 淡路島ののどかな山村にそびえ立つ名家が一瞬にして血の海となった。3月9日朝、兵庫県洲本市の2軒の家から計5人の男女が殺害されているのが発見された。兵庫県警は、5人の一部の親族とみられる、平野達彦容疑者(40)を現行犯逮捕。資産家一族に一体、何があったのか。

 殺害されたのは、元県職員の平野浩之さん(62)と妻の方子(まさこ)さん(59)、浩之さんの母の静子さん(84)。近くに住む、平野毅(たけし)さん(82)と妻の恒子(つねこ)さん(79)の5人。浩之さんの親族の証言。

「殺害現場は、部屋の天井まで血が飛び散り血の海だったそうです。『何人死んでいるのかわからない』と聞きました」

 亡くなった静子さんは地元の保育園で、給食の調理を担当していた。静子さんと親しい人は恐怖さめやらぬ様子でこう語った。

「給食のおばちゃん、と子供らから慕われ、いつもニコニコと笑顔。老人会の活動にもよく参加してて、カラオケが好きでしたね。最近、足が不自由になり外出が少なくなった。こんな目にあうとは、怖いです」

 浩之さんは農業の専門家、毅さんは元洲本市職員。一族は地元の市議より広大な畑を所有し、退職後は地元の親睦団体の役職につくなど、資産家の名士だ。一方、被害者の一部の親族とされる達彦容疑者は地元の小学校、中学校に進んだが、その後、引きこもり状態に。「もう10年以上も前から姿を見たことがない」と近所の人は言う。

「子供のころに両親が離婚。学校でいじめにあったこともあり、引きこもりになってしまった。アルバイトもしていたが長続きしなかった。(達彦容疑者の)父や亡くなった親族も悩んでいた」(前出の親族)

 そして達彦容疑者は通院歴があり、兵庫県明石市の病院に長期入院し、治療していた。一時、明石市の友人宅にいたが、昨年秋ごろ、淡路島に戻った。

「退院後、畑仕事を手伝うようになった。それが、またダメで引きこもっている」と父親は嘆いていたという。

 そして、達彦容疑者は、フェイスブックやツイッターなどのSNSに、殺害された被害者側の実名、個人情報をあげて悪口を書くようになる。

 達彦容疑者のものとみられるSNSの投稿では、被害者側について「集団ストーカー犯罪」などと書き、一方的に中傷していた。批判はさらにエスカレート。「スパイリスト」として100人以上の名前を挙げ、中傷。面識のない地元の人にまで及んだ。

「なんで悪口を書くんだと思った。だが、近所の評判では近寄るなという話なので、我慢していました」(地元の人)

 被害者の親族は2月に洲本市の無料法律相談や県警に書き込みのことなどを相談していた。

「普段はおとなしいのに、『電磁波から追われている』とバイクや自転車で走り回る。注意すると、親族と殴り合い、『スパイにやられる』と大騒ぎ。『スパイと対決だ』と宅配便で奇妙なものが届くなど、ずっと奇行ばかりが続いていた。父は『もう手のほどこしようがない。何をするかわからん』と話していた。まさかこんな結末になるとは」(前出の親族)

 危機感を募らせた達彦容疑者の父親は最近、近所の人々に「達彦が外出したら、110番してください」と話し、警察も時折、パトロールしていたという。逮捕時には容疑を認めていた達彦容疑者。だが、「わからない」と否認をはじめた。当局は今後、精神鑑定をするかどうか、検討している。

(今西憲之)

週刊朝日 2015年3月20日号