兵庫県に住む山内恭子さん(仮名・72歳)は2年前、健康診断で受けた腹部のCT(コンピューター断層撮影)で左側の腎臓にがんが見つかった。近くの総合病院でがんのみを切除する腎部分切除術を受けることになった。

 腎臓は尿をつくり、老廃物や水分を排泄する重要な臓器だ。腎がんの原因はわかっていない。初期には症状があらわれにくく、気づいたときにはがんが大きくなっていることもある。その場合は腹腔鏡という内視鏡を用いた手術による腎摘除術(全摘)が基本だ。しかし最近は山内さんのように、健診などで小さいがんが偶然見つかる症例が多くなっている。

 腎がんは、大きさが4センチ以下なら部分切除で治療する。全摘より部分切除のほうが術後に腎機能を温存できる。さらにがんが切除しやすい場所にあれば、おなかを切らずに腹腔鏡を用いて手術できる。通常はおなか、あるいは背中に4~5カ所の孔を開けるだけで済むため、からだへの負担が少なく、入院期間は約1週間だ。

 山内さんは当初、腹腔鏡での部分切除を予定していたが、がんが血管に近い場所にあったため、腹腔鏡での手術はむずかしいことがわかった。開腹での部分切除は、わき腹を約20センチ切開する必要がある。からだに負担の少ない方法で手術を受けたいと思った山内さんは、神戸大学病院でロボット支援による腹腔鏡下腎部分切除を実施していることを知り、セカンドオピニオンを受けることにした。

 山内さんを診た同院泌尿器科教授の藤澤正人医師は、こう話す。

「山内さんのがんは40×34ミリで大きさとしては腹腔鏡下での手術が可能でしたが、腎動脈と腎静脈が腎臓に入り込む腎門部というところに近く、血管を傷つけないように切除する必要がありました。そのため腹腔鏡ではむずかしいと考えられ、開腹手術をすすめられたのだと思います」

 しかし藤澤医師は、手術支援ロボットを使った「ロボット手術」であれば、開腹せずに腹腔鏡下でできると判断した。

 ロボット手術は、医師が患者に触れず、機械を遠隔操作してがんを手術する方法だ。通常の腹腔鏡下手術と比べて、手術器具(鉗子)の先端が関節のようになっているので操作角度が広い。手ぶれ補正の機能もついており、繊細な手術をより安全におこなうことができる。また、術中は詳細な3D–CT画像と対応させることも可能だ。そのため、腹腔鏡ではむずかしいとされた、がんが腎臓の表面から埋没している症例や、血管の近く、あるいは血管を巻き込むようなかたちになっている症例でも、開腹をせずに短時間でできるという。

 山内さんの手術は約4時間で終了。がん細胞を完全に取り切ったといえる状態で、術後9日目に退院した。手術から2年たつが、3カ月ごとの検診でも再発はなく元気に暮らしている。

 部分切除では、がんを完全に切除して根治させることと、腎臓の正常な部分をできるだけ残して、術後の腎機能を温存することが重要になる。現在はがんの大きさが4センチ以下(ステージT1a)のものがおもな対象となっているが、4~7センチのがん(ステージT1b)でも実施する施設が増えてきた。今後は部分切除の症例がさらに増えるだろう。

「T1bの部分切除も、ロボット手術なら短時間で安全に切除できるでしょう。また、山内さんの例のような、腹腔鏡ではむずかしいとされた場所の腫瘍についてもロボット支援下なら腹腔鏡で実施できるなど、今後は、部分切除においてはロボット手術が主流になると考えられます」(藤澤医師)

 ロボット手術は現在、腎がんでは自費診療だ。しかし2014年9月以降、先進医療の実施施設に認められた全国14施設で受けると、手術以外の入院の費用に保険が認められる。16年の保険承認を目指しているという。

週刊朝日  2015年2月6日号より抜粋