2011年の歯科疾患実態調査によると、80歳で自分の歯が20本以上残っている人の割合は38.3%と増加してきた。歯や口の中の健康への関心が高まるが、歯科矯正も口の中の健康と大きな関係があるという。福岡歯科大学矯正歯科学分野教授の石川博之歯科医師に聞いた。

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 大人になって周りから矯正を勧められると、「そこまでする必要があるの?」と思われる方も多いようです。

 確かに、大人の矯正は時間と費用がかかります。なかには不正咬合があっても、いままで不自由を感じなかったから矯正は必要ないという方もいらっしゃるでしょう。

 たとえ不都合を感じていなくても、歯並びや噛み合わせは、咀嚼や発音といった口の機能に影響します。また、口内の健康維持にも関係しています。

 下顎前突や上顎前突、開咬では、前歯で噛み切ることが難しかったり、程度によっては発音に影響が出たりすることもあります。叢生では歯が磨きにくいだけではなく、唾液による自浄作用が低下し、2次的にむし歯や歯周病のリスクが高まります。

 一方、歯周病が進むと、不正咬合の悪化に拍車がかかることがあります。たとえば歯周病で奥歯の歯槽骨が溶けてしまうと奥歯の支えが弱くなり、前歯に負担がかかります。このとき、上顎前突があると、さらに歯が前に出てしまい、すきまができたりします。

 すでに噛み合わせや歯並びに異常がある人は、一度、矯正歯科で相談してみることをおすすめします。

 自分の歯で噛んで食事をすることの重要性は、多くの人が感じているでしょう。認知症の予防や全身の健康維持のために、1本でも多くの歯を残して健全な食生活を送ることが大切です。噛む機能の向上や口の健康増進の一環として、歯並びを治す矯正を視野に入れておきましょう。

 矯正歯科を選ぶ際には、日本矯正歯科学会などの認定医や専門医を目安にするといいでしょう。

 矯正治療は抜歯を伴うこともあります。抜歯が必要なのに抜かずに矯正すると、顎に歯が収まりきらない症例も少なくありません。患者さん一人ひとりの口に最適な設計図をつくってくれる歯科医師を選んでください。

週刊朝日 週刊朝日 2014年5月30日号より抜粋