お笑いコンビ「松本ハウス」のハウス加賀谷は、統合失調症のために99年にコンビ活動を休止。その後09年には見事復活を果たし、現在はコンビ活動も再開しているが、そこに至る道のりは決して平坦ではなかった。病状が悪化して入院を経た後、復活に至るまでの経緯を次のように話す。

キック:復活は最終的に加賀谷のほうからやりたいと電話をかけてきたんです。夜中に突然かけてきて「キックさん、あの、うをあ」って泣きだすから、症状悪化したんかと思いました(笑)。

加賀谷:電話なら言えるかなと思って電話したら、感極まっちゃって。わーんと。

キック:なに泣いてんだよアホか(笑)。すごくうれしかったけれど、「さあやろか」とはすぐには言えない。もし症状が悪化したら責任が取れない。それでまず僕のトークライブに素人として出してみたら、汗かきながら必死になって笑いをとっている。それでいけるなと。

加賀谷:僕、汗かきなんですよ。

キック:おい(笑)。

――昔と今でお笑いの芸で違いがありますか。

加賀谷:前はキックさんの台本を読んで、話のブリッジというか、この話題で一回落ちて、次の話題に進行するまでの間に、余白を見つけられたんですよ。そこでぽつりと勝手に言葉を入れる。今はまだ見つけられないです。

キック:今は追い詰められて、アワワしている姿がおもしろい(笑)。

加賀谷:僕も二十数年かけてこの「しどろもどろ芸」をつくり上げたんですから(笑)。ただ普通に真面目にやってたんじゃ、しどろもどろはできないと思うんですよね。

キック:偉そうに言うな(笑)。

加賀谷:やはりだからこのそのぉ……。

キック:いやだから偉そうに言うな(笑)。いい味が出てきたんじゃないですか。昔は切れ味だけだったのが、鈍いのも味だし、いろんな味が出せるようになってきているんですね。

加賀谷:復活した直後は記憶力も低下していて、キックさんが書いてくれた2、3ページの台本がひと月やっても覚えられない。それが復活して4年たって、飲んでいる薬の種類も量も変わらないんですが、どんどんクリアになってきています。

キック:失敗したり、台本をなくしたりとか、いろいろな方法を試していたら、2年ぐらいして加賀谷がボソッと「キックさん、ネタを覚えるのが早くなってきました」。そういえばそうだなと。当初は1カ月かけても覚えられなかったのが2週間、3日となって、簡単なものなら当日でも覚えられるようになりました。

加賀谷:でもそうなってから、キックさんが当日までネタ作ってこなくなったんです(笑)。

週刊朝日 2013年10月25日号