心筋梗塞と脳腫瘍を患った経験を持つ亀田総合病院特命副院長、主任外科部長、内視鏡下手術センター長の加納宣康医師(64歳)に、いい病院を選ぶポイントについて聞いた。

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 53歳のときに心筋梗塞と聴神経腫瘍(脳腫瘍の一種)を患い、治療を受けました。現在も血液をサラサラにする薬や脳神経を守る薬などを、朝6錠、夜7錠服用しています。

 心筋梗塞が起きたのは、地域の胃がん研究会に出席した後です。ドーンとからだが何かで突かれたような痛みと衝撃に襲われ、そのまま床に倒れ込みました。「これは、心筋梗塞だ!」と直感しました。

 救急搬送された最寄りの救命救急センターでカテーテル検査を受けたところ、やっぱり心筋梗塞でした。そこで血栓を溶かし吸引する溶解吸引療法を受けました。もうろうとする中で、「このままだと心臓が止まる」「死ぬ」と思いましたが、一命を取り留めました。

 聴神経腫瘍が見つかったのは、心筋梗塞を発症した4カ月後です。インドに出張中、激しいめまいで歩くこともままならなくなったため、現地の病院へ。そのまま入院となりました。帰国したのは、4日後で、当院でCT(コンピューター断層撮影)とMRI(磁気共鳴断層撮影)を受けたところ、脳腫瘍と診断されました。しかも担当医いわく「腫瘍が大きすぎて手術は困難」。ショックでした。

 でも、落ち込んでいるわけにはいかない。手術ができなければ、次の手段を考えるしかないのです。治療法を探し始めた矢先、同僚の小児外科医が放射線治療の「ガンマナイフ」が有効であると教えてくれました。当時、当院はガンマナイフの設備がなかったので、症例数が最も多かった東京女子医科大学病院を受診し、治療を受けました。

 病院選びについて、症例数を重視することに異論を持つ方もいると思います。しかし僕も外科医の一人。やはり「数=経験」であり、「経験=技術の高さ」だと考えています。僕自身も一人でも多くの患者さんに接して、少しでも多くの経験を積むことを目指して、ここまでやってきました。

 実を言うと、僕の病歴は心筋梗塞や聴神経腫瘍に限ったものではありません。幼稚園時にかかった髄膜炎に始まり、腎臓病、副鼻腔炎、虫垂炎、痛風……。これまでに数多くの病気を経験しました。患者が医者になったようなものです。病気のことは患者さんにもオープンにしていますし、新聞の連載や本にも書きました。そういう意味では、個人情報の垂れ流し状態ですね(笑)。

 そんなわけですから、患者さんやそのご家族から相談を受けることが少なくありません。患者さん自身の将来のことや家族の病気のことを相談されたときは、お住まいのある場所など状況に応じて、他の病院を勧めることもあります。当院は日本屈指のいい病院だと自負していますが、患者さんにとって行き来が便利なところを紹介することも必要ですから。

 高齢化が進み、持病を抱える患者さん、複数の病気を抱える患者さんが増えています。僕もその一人です。そうなると手術力のみならず総合力で患者さんを診て、支えることが重要。それができるのが、いい病院です。

 具体的にいえば、経験豊富な総合病院でしょう。がんの専門病院だと、心臓など他の臓器に病気があると「手術できない」と言われることもあります。手術数がある程度多い総合病院で、地元での評判や治療成績なども参考になると思います。

 あとは、受付の対応が悪かったり、説明なく待たされたりする病院はダメ。医師も病院のスタッフの一人であることを考えると、スタッフの教育の悪さは病院全体の総合力の低さ、医療レベルの低さを示しています。いくら名医と称される医師がいたとしても、そんな病院にかかるのは避けたほうがよいと思いますね。

週刊朝日 2013年10月18日号