近ごろ、往年の人気バンドの来日とともに70年代ロックが再燃している。彼らの当時を知る、洋楽雑誌『ミュージック・ライフ』伝説の編集長、東郷かおる子氏とその素顔を撮った写真家、長谷部宏氏が対談で、エリック・クラプトンの意外な素顔について語った。

*  *  *

――1974年はエリック・クラプトンが初来日でした。

長谷部:インタビューを申し込んだのに、体よく断られちゃった。でも「写真が必要だ」って当時の水上編集長が言うから、どっかで撮らないとなぁとエレベーターを見てたら、地下にスウ~と降りていくわけ。「駐車場で待っていたら来るな」って思ってさ。車と車の間に隠れてたら、案の定来たの。ところがクラプトンはへべれけに酔っ払って歩けない。両側をローディーに抱えられてた。そこへパッと出て行って、1枚パシャッと撮ったわけよ。でもウドー(ウドー音楽事務所)の社長が睨んでる。「あ、いけね」って思って、「これは使わないから」って謝ったの。

――コンサートはちゃんとやったんですよね?

長谷部:べろんべろんだと思ったのに、ちゃんと出てきてガ~ンとギター弾いて歌うんだよな。「えっ? なんだこれ?」って思った。

東郷:1曲目に「いとしのレイラ」が始まったら、もう「ワアーッ!」と大騒ぎよ。

――「余裕たっぷりのステージ」と、当時の記事に書いてあります。

東郷:酔っ払って動きが緩慢だっただけよ(笑)。この後、75年に再来日した頃が一番、格好良かったな。いっしょに当時の恋人、パティ・ボイドも来てて、「ああ、レイラがいる!」って。

長谷部:大阪で取材したね。カラーとモノクロ写真、両方が欲しいと編集部に言われて、カラーはフラッシュを焚かなきゃ撮れない。イヤがられるんじゃないかって恐る恐る1枚だけ撮ったら、そのときも酔っ払ってて全く気にしないんだよ。「なんだ、気を使って損しちゃった」と思って、そこからはバシバシ撮った。

東郷:すると、クラプトンが飲んでた高級ブランデーを差し出し、「君も飲むかい?」って言ったのよ。「飲みますっ!」ってガアって飲んだら、頭がパアン!

――(爆笑)

東郷:私がよくわかりもしないまま、「白人にもブルースは演奏できると思いますか?」なんて、彼が当時最も悩んでいたことを聞いたわけ。そしたら、「えっ?」て言葉に詰まって、「そうだなあ」って考え込む。「できる、と思うときもある」と言ってまたしばらく考え込んで、「でも、ぜんぜんダメだと思うときもある」なんて言うわけよ。その悩む姿に「ステキ~」って。

週刊朝日 2013年9月13日号