肝がんの約9割は、B型、またはC型の肝炎ウイルスを持っているために発症する。日本大学板橋病院・消化器外科教授の高山忠利医師はこう話す。

「10年くらい前までは肝炎ウイルスに対する効果的な治療法はありませんでしたが、現在では患者の7割近くはインターフェロンという注射薬で体からウイルスを駆除できるようになりました。臓器別のがん死亡率では、肺がんや大腸がんなどほとんどのがんが右肩上がりで増えているのに対して、肝がんだけがやや減少傾向にある。これもウイルスが排除できるようになった予防効果が大きいと思います」

 肝がんの主な治療法は「手術(肝切除術)」「ラジオ波燃灼療法」「肝動脈塞栓療法」の三つだ。病巣を切り取る手術に対し、ラジオ波は、腫瘍に直接電極針を刺し、針の先から発生する熱によってがんを死滅させる。肝動脈塞栓療法は、がんに栄養を運んでいる血管を人工的に塞いで“兵糧攻め”にする方法だ。

 治療方針は「がんの数と大きさ」「肝機能」「年齢」を参考に決定する。

「手術とラジオ波は治療効果に差がないと誤解されることもありますが、がんを最も根治しやすい、つまり生存率が高い治療は手術です。しかし肝炎ウイルスを持つ患者さんは、そもそも肝機能が良くないことが多い。肝機能が悪かったり、あるいは高齢などで手術に耐えられなかったりする場合には、体への負担が少ないラジオ波を推薦します」(高山医師)

 ただしラジオ波で治療ができるのは、腫瘍が3センチ以下、数が3個以内の場合だ。一方、手術も3個までだが、大きさに制限はない。

「患者さんから『ラジオ波で治療できないか』と言われても、受診してきた段階で3センチを超えていることが多い。また、ラジオ波を適用できるケースでも、治療成績が手術と同等ということはなく、手術が上です。最初に検討すべきは、あくまでも高い生存率を達成できる手術です」と高山医師は話す。

 がんが4個以上の場合は、肝動脈塞栓療法を実施する。患者が初回治療として受ける治療法の割合は「手術30%、ラジオ波30%、肝動脈塞栓療法40%」だという。

 また、肝がんのほとんどはウイルスが原因で肝臓全体ががんになりやすい状態になっているため、同じ肝臓でも、治療をした部位とは別のところに再発する「多中心性発がん」も多い。「取り残しで再発するケースは5%程度。9割以上は多中心性発がんです」(同)

 再発でも、がんが3個までなら再度手術かラジオ波で治療し、4個以上であれば肝動脈塞栓療法をする。

「再手術が難しい場合でも、肝動脈塞栓療法のおかげでかなり長生きができます。また分子標的薬を中心とした化学療法も大きく進歩しています」(高山医師)

 なお最近、腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術を肝がんにも実施しようという動きがある。しかし高山医師はこう話す。

「肝臓は血管が豊富な臓器なので出血の危険があり、腹腔鏡下手術は難しいとされてきました。新しく出てきたものが必ずしもいいわけではありません。これまでの手術法との客観的な比較をし、いい成績が出たときは取り入れていけばいい。『患者さんにとって真に利益になる治療であること』が最も重要なのです」

週刊朝日  2013年9月6日号