北朝鮮で朝鮮戦争の休戦60周年祝賀行事として、過去最大規模の軍事パレードが行われた。金正恩体制が2011年12月にスタートした当初は、変革も期待されたが、核戦力増強路線は続いている。もっとも、強気に見せているそのウラでは、軍内部でさえ深刻な食糧難になるなど、かなり厳しい経済状況が垣間見える。その理由の一つは、特定兵器の輸出入禁止などの国連安保理決議に基づく制裁だ。しかし、昨年もいくつもの制裁破りをしてきた。いったいどれほどひっ迫した状況なのか、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が明らかにする。

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 制裁破りの武器取引で、なりふり構わぬ外貨獲得に邁進しているということだが、それでも以前は、イランやシリア、パキスタンなどに大型の弾道ミサイルを売却したりして多額の外貨を稼ぎまくっていたわけで、それからみれば、最近は国際社会の監視の目をかいくぐる小規模の取引に終始している印象だ。

 つまり、それだけ外貨獲得に苦労しているのだが、その象徴的な事件が、7月15日に起きたパナマでの北朝鮮貨物船の拿捕(だほ)事件だろう。キューバから北朝鮮に砂糖を運搬しているように偽装した船内から大量の武器が発見された。この事件では、当初、「高性能の地対空ミサイル・システムの一部が見つかった」と発表されたことから、北朝鮮が「高性能兵器」をキューバから密輸入しようとしたと大きく報じられた。

 しかし、その後、発見された武器の内容が詳しく報じられ、そうした話とは違うことがわかってきた。積まれていた武器は240トンにも及んだが、旧ソ連製の戦闘機「ミグ21」が2機、地対空ミサイル「SA-2ガイドライン」の専用レーダーの一部、分解された旧式のロケット9基など。ミグ21もガイドラインも50年代に開発された骨董品のような武器で、もはや現代戦にはほとんど役に立たないものだ。しかも、北朝鮮はミグ21をすでに約120機、ガイドラインを約180基も運用しており、今さら新たに入手する必要性はまったくない。

 その後、キューバ政府も北朝鮮政府も、これらの武器はキューバが北朝鮮に売却したものではなく、北朝鮮で修理して、またキューバに戻す予定のものであると発表したが、それはおそらく事実だろう。

 北朝鮮とすれば、本来なら弾道ミサイル売却などの大型ビジネスで多額の外貨を稼ぎたいところだが、それが難しい今、薄利の旧式兵器メンテナンスでもやらざるを得ないほど困窮しているということである。

 この船には大量の砂糖が積まれていたが、おそらくそれは同じような最貧国であるキューバからの、武器の修理費代わりだったのだろう。金正恩政権としては、戦勝節に、兵士たちに甘いものを配給しようとしたのかもしれない。

週刊朝日  2013年8月9日号