作家の室井佑月氏が自民党・石破茂幹事長の「国防軍」に関する発言、福島第一原発の作業員の甲状腺被曝について、このように持論を展開する。

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 7月16日付の東京新聞の記事にびっくりした。【平和憲法に真っ向背反】という見出しの記事で、自民党の石破茂幹事長が4月にテレビに出たときの発言について書かれてあった。自民党は改憲草案で、憲法9条を変更し、自衛隊を「国防軍」にしたいといっている。そして国防軍には、「軍事裁判所的なものを創設する規定がある」というのだ。現在の自衛隊で隊員が上官に従わない場合の、自衛隊法の最高懲役7年では甘すぎるからだとか。

「『これは国家の独立を守るためだ。出動せよ』と言われたときに、いや行くと死ぬかもしれないし、行きたくないなと思う人がいないという保証はどこにもない。だから(国防軍になったときに)それに従えと。それに従わなければ、国における最高刑に死刑がある国なら死刑。無期懲役なら無期懲役。懲役300年なら300年。そんな目に遭うぐらいなら、出動命令に従おうっていう。人を信じないのかと言われるけれど、やっぱり人間性の本質から目を背けちゃいけない」(石破氏談)

 国防軍の隊員をそうしたいって話だよね。でも、この国の政治家には「徴兵制を!」と声高にいっている者もいる。そうなったら、この恐ろしい制度がどう関係してくるんだろう。

 19日付の朝日新聞には、福島第一原発の作業員で、がんが増えるとされている100ミリシーベルト以上の甲状腺被曝をした人が、去年12月の公表人数より10倍以上多い2千人に増えたとの記事があった。

 福島第一原発の収束にはまだまだかかるわけで、そうなると、そこで働く人間の数が必要になる。専門職の人たちが軒並みいなくなると不味(まず)いから、その下で働くのは国に集められた普通の人にならないか。

 憲法が改正され、海外の戦地へ日本が軍を出すようになったとしでも、同じことがいえる。日本にいて国を守る専門家(自衛隊? 国防軍?)も必要なわけで、海外の戦地へ行かせるのは半分専門家で半分徴兵制で集めた人になったりするんじゃないか。

 厭(いや)な予感がする。あたしには息子がいるが、そんな恐ろしい出来事に巻き込まれるため産んだんじゃない。けれど、この国で生きている以上、力ある者の恐ろしい考えに、巻き込まれ流されてゆく集団心理には負ける。選挙の投票所入場整理券みたいに、愛する息子に徴兵制の誘いの封筒が送られてくるようなことがあったとして、「行くな! おまえをそんな場所に送るために、あたしは産んで育てたわけじゃない」。そう正直に発言したら、あたしたち親子に嫌がらせや危害を加えるのは、普通の人でありそうなところが、じつはもっとも怖い。ほんとうは一緒に、自らの立場を嘆くはずの人たちが簡単に洗脳される。石破さんじゃないけど、人を信じないのか、といわれても、その部分は信用できない。人間性の本質ってことで。

週刊朝日  2013年8月9日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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