養殖技術の向上により、かつて庶民には手が届かないぜいたく品だった「本マグロ(クロマグロ)」も、昨今はスーパーに出回り、回転ずしで口にできるようになった。この養殖マグロ、実は安全面でも天然を上回るという。

 マグロといえば水銀濃度が高いことで知られる。食物連鎖の上位にいるマグロは、小型、中型魚を食べて育つ。その結果、どうしても水銀の量が他の魚介類よりも多くなってしまう。

 この水銀濃度は養殖と天然でどう違うのか、両者を比較した。マグロの有害物質の濃度を研究する北海道医療大学薬学部准教授の遠藤哲也氏が調べたデータを見ると、天然マグロより養殖マグロのほうが水銀濃度は低い。水産庁が公表している水銀の分析結果でも、同様の結果が出ていた。この理由について、遠藤氏はこう説明する。

「一般に、マグロの水銀濃度は食べた餌(えさ=小型魚や中型魚)の量に比例します。自然界には豊富に餌があるわけではないので、天然のマグロは広く海洋を動き回って餌を確保する。動くスペースが狭く、餌が潤沢な養殖マグロに比べて、無駄な動きが多いため、結果的に同じ大きさの養殖に比べて食べる量が多く、水銀濃度が高くなりやすい傾向があるのです」

 また、水銀濃度は大きさや年齢とともに高まるため、小型で若い養殖は濃度が低くなりやすい。

 もう一つ理由がある。天然マグロは筋肉である赤身部分が多い。具体的に言えば、天然マグロではトロの部分が20%ほどなのに対し、養殖マグロでは80%にもなる。水銀は筋肉をつくるたんばく質にたまる性質がある。天然のほうで水銀濃度が高くなりやすいのは、そのためだ。

週刊朝日 2013年6月21日号