演歌界の重鎮に「曲を書くのがおっかない」と言わせた被災地の18歳 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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演歌界の重鎮に「曲を書くのがおっかない」と言わせた被災地の18歳

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週刊朝日

 初めてみやさと奏(かな)さんに会ったのは1年前だった。岩手県立宮古水産高校を卒業直前に被災した、18歳のみやさとさんの1年後を追った。
 3月24日、みやさと奏さん(19)は宮古市にいた。所属する事務所が被災地で開催するミニライブのメンバーとして故郷に帰ってきたのだ。小雨が降る午後1時過ぎ、閉伊川河川敷の広場で、1カ月半後に発表するデビュー曲「風港」を歌い始めた。
 ステージ脇では、藤原美以子(みいこ)さん(53)が右手で涙を拭っていた。みやさとさんは、藤原さんが自身の歌謡教室で6年間、基礎からみっちりと教えた教え子だった。かわいがってくれたおじさんを津波で亡くし、家に引きこもり状態だったみやさとさんを叱咤して励ましたのも藤原さんだった。
 昨年6月、みやさとさんは藤原さんに送り出されて、演歌界の重鎮である作曲家・叶弦大(げんだい)さん(73)に弟子入りした。先輩歌手と共同生活をしながら、叶さんのレッスンを受けてきた。今年5月のデビューも決まった。デビュー曲の作曲は叶さん、作詞は氷川きよしさんらの歌も手掛ける水木れいじさん(61)だ。弟子入り後、1年足らずでのメジャーデビューは、演歌界では異例のことだという。環境は恵まれていた。だが、それだけではない。みやさとさんについて、叶さんはこう言う。
「10代であれだけ詞の表現と声ができている人はいないかもしれない。曲を書くのがおっかないとこがあるよね。歌いこなせるから、それだけ高度なものを作りたくなるけど、そうすると大衆がついてこられなくなるから。今回はそうならないように、気をつけながら作りました」
 デビュー曲「風港」の歌詞には、「峠ノ神山」「浄土ケ浜」など、みやさとさんにとって馴染み深い場所が入っている。
「地元が舞台だと気持ちが入りやすい。宮古のいい所を伝えられるように歌いたい。早く成功して、一人で暮らしているお母さんを呼び寄せたいです」
 人見知りでもじもじしていた昨年とは違う、しっかりとした口調でみやさとさんは言った。
※週刊朝日 2012年4月20日号


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