「伝説のトレーダー」と呼ばれ、現在は投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める、藤巻健史氏。金融市場に長く生きる藤巻氏が、原発事故によって"自己破産"の危機を感じた瞬間があったと明かした。

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 私自身、銀行から多額の借金をして不動産を買ってきた。借金も不動産もインフレ時には有利だからだ。

 この「多額の借金をして不動産保有」という私の資産配分は、日本政府とそっくりだ。いや、わざと、そっくりにしていたのだ。

 日本最大の借金王は日本国政府である。最終的にはきっと国は自分の都合のいいように事態を収める。1千兆円もの借金を抱えたいま、財政破綻で政府機能がマヒするのを防ぐにはハイパー・インフレで借金を実質棒引きにするしかない。

 だからインフレになることを信じ、インフレ対応型の配分にしていたのだ。

 私が想定していた最悪シナリオは「東京を直下型地震が襲い、建物の価値がゼロになるが土地の価格は半分が残る。銀行からの借金は丸ごと残る」だった。私はこのシナリオでも自己破産をしないという前提で配分してきた。

 しかし、最近明らかになった「福島原発事故で東京が避難区域になったかもしれない」という話を聞いて私は愕然とした。建物だけでなく土地の価格までがゼロになれば私は間違いなく自己破産である。それ以上に生存の危機だ。見通しの甘さを大いに反省した。

 長い間マーケットにいた私の哲学は「どんなに確率が低くとも、万が一の事態が起きれば自分や会社が破綻するような勝負は、どんなに儲けが大きくともしない」というものだった。

 資産運用と政治は違う。しかし、哲学は同じはずだ。確率がどんなに低くても、万万が一事故が起これば多数の日本人の生存が危うくなることは、たとえリターンが大きくてもすべきではない。それが、福島原発以降、私が原発再稼働反対の立場に変わった理由である。

※週刊朝日 2012年4月6日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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