中学受験の壁 経済的ハードルを下げる制度が続々登場
武蔵野大中高/「言語」の授業。考えを紙いっぱいに書いて思考をアウトプットしていく。中高も大学と同じキャンパス内にあり、緑豊かな恵まれた環境で勉学に打ち込める。2018年に就任した日野田校長の「失敗を恐れずチャレンジする精神」が、教員や生徒にも伝わり、学校の雰囲気が変わりつつあるという(写真:学校提供)
大宮国際/理科の授業。2時間続きの授業で深く学べる。実験は生徒が自分で調べながら進めていく。同校は埼玉県で3校目となる公立中高一貫校。MYPでのIB校に認定された後には、大学進学のためのディプロマプログラム(DP)での認定を申請する予定だ(撮影/柿崎明子)
有力中高一貫校が高校の募集を停止したことにより、中学受験が激化傾向にある。倍率は厳しくなりそうだが、その一方で近年は、中学受験の壁となっていた経済的ハードルを下げる制度も登場している。AERA 2019年9月23日号に掲載された記事を紹介する。
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中学受験をするか悩む際の大きな壁の一つが、経済的負担だ。だが、その点で受験の追い風となりそうなのが、20年4月から導入される私立高校授業料の実質無償化だ。中学とは直接関係ないが、6年間のうち半分が軽減されることで、中学受験に弾みがつきそうだ。
これまでも年収910万円未満世帯には、公立高校授業料相当の11万8800円の就学支援金が支給されてきた。それが今回の無償化で、年収590万円未満の家庭を対象に、私立高校授業料の全国平均額に当たる40万円に支給が拡充される。東京、大阪では先駆けて無償化が始まっているが、全国展開されることで経済的なハードルが下がりそうだ。
20年からは開成(東京都荒川区)がこれまで高校生を対象にしてきた「開成会道灌山奨学金」を中学生にも拡大する。これは受験前に奨学金を予約することで、経済的な心配なしに受験に臨める制度だ。出願時に申請を行い、資格要件を満たせば採用候補者となり、合格すれば入学金や授業料などが支給される。6年間で約460万円。就学支援金などの公的補助を受ければ、その分は減額される。同校の担当者は言う。
「経済的に苦しくても志の高い生徒に入学してほしい。奨学金を支給することで、生徒の多様化につなげたい」
従来、志望校を決める指標は、偏差値や大学進学実績だった。だが最近は、特色あるグローバル教育推進校の人気が高まっている。
なかでも注目は、武蔵野大中高(東京都西東京市)だ。前身の武蔵野女子学院中高は志願者が減少していた。18年に、日野田直彦さんが校長に就任。日野田さんは公立校としては最年少の36歳で大阪府立箕面高校の校長に就き、偏差値50の公立高校を、世界のトップ大学に進学者を送り出す高校へと改革した。
武蔵野大中高は今年、中学を共学化。説明会を開くと1千人が集まる人気校になった。人気の理由の一つが、マサチューセッツ工科大学(MIT)などで行う「アントレプレナーシップ海外研修」。一流の起業家たちの講演を聞いたり、グループで課題を設けてワークショップを行ったりする。最終日には起業家やMITの学生たちの前でプレゼン。夏休みに行われ、今年は中3から高3までの30人が参加した。日野田校長は言う。
「講演に来てもらった起業家は、本気で世界を変えてやろうという人たち。語学力が問題ではなく、言葉はわからなくてもそのパッションは通じる」
生徒はこのプログラムに刺激を受けて、帰国後は自ら英語を勉強するようになる。今年の4月からは英語と国語をコラボした「言語」の授業も始まった。英語科と国語科の教員がチームを作って、教材作りや授業の内容を考えるという。
公立中高一貫校にも新しい動きが広がっている。さいたま市立大宮国際中等教育学校は、国際バカロレア(IB)の11~16歳を対象とする中等教育プログラム(MYP)候補校で、認定されれば首都圏の公立中高一貫校としては、初めてのIB校となる。20年の認定を目指す。
同校では、道徳と学活以外はすべて2時間続きで授業を行い、授業には必ず生徒の活動が盛り込まれている。教科の枠にとらわれない授業も多く、週に1度、各教科の教員が集まって授業の方針を話し合っている。
独自の探究学習が3Gプロジェクトだ。今年の春から取り組んだのが「部活作り」。グループごとに候補を決めてポスター発表会を行い、投票で絞られた部活を生徒全員が体験、再投票で実際に活動をする部活を決定するという、生徒主体のプログラムだ。また、MYPカリキュラムの一つ、サービス・アズ・アクションでは、公的機関や企業、NPOなどから提供されたボランティアのプログラムを、生徒が自分たちで役割分担し、実施した。
IB校は圧倒的に私立が多いが、関田晃校長は、公立に導入する意義をこう語る。
「IBは非常に優れた教育プログラムです。公立なら経済的な負担も少なく、多くの生徒にチャンスが広がります」
(ライター・柿崎明子)
※AERA 2019年9月23日号より抜粋
AERA
2019/09/21 08:00