第71回『ライヴ・アット・ダグ』バリー・ハリス
『ライヴ・アット・ダグ』バリー・ハリス
1995年は前年から3組増となる137組が来日した。横ばいと言っていいだろう。40組のフュージョン/ワールド/ニューエイジが首位に返り咲き、36組の新主流派/新伝承派/コンテンポラリー系、27組の主流派、19組のヴォーカル、5組のフリー、同数のモダン・ビッグバンド、4組のR&B/ファンク、わずか1組のスイングが続く。個々に増減はあるが、順位そのものは首位と2位が入れ替わったほかは前年と大差ない。
参加作は前年から2作減の25作で、1作はスタジオ録音とライヴ録音に二分される。重複して勘定すると、ホール録音を含むスタジオ録音は11作、日本人との共演は9作で5作が和ジャズだ。ライヴ録音は15作、日本人との共演は13作で5作が和ジャズだ。和ジャズと長期滞日者の1作を除く9作からバリー・ハリス『ライヴ・アット・ダグ』を取り上げる。選外作の評価や除外要件は欄外の【1995年 選外リスト】にまとめた。
「バップ・ピアノの伝道師」バリー・ハリスの初来日は1976年4月、「ザナドゥ・オール・スターズ」の一員だった。その後は1991年5月の「100ゴールド・フィンガーズ」まで来日の記録は見当たらない。ライヴといえばホールや野外フェスがメーンの時代だ。バップ・ピアノ一筋の地味シブなハリスが引く手あまたになるはずもなかろう。1992年も続けて来日、93年に脳梗塞に見舞われる。一時は再起を危ぶまれたものの復帰を果たす。ハリスは教育者としても多忙で、我が国では尚美学園大学客員教授に就き、ワークショップやコンサートで少なくとも2004年から14年まで毎年来日している。直近の来日は2016年6月。3月に逝った愛弟子、福居良氏の追悼コンサートだった。推薦盤は1995年5月に「100ゴールド・フィンガーズ」で来日した機会をとらえて新宿「ダグ」で録音された。稲葉国光(ベース)と渡辺文男(ドラムス)が脇を固める。
2014年に未発表6曲を追加して出た「完全版」は1枚目にファースト・セットを、2枚目にセカンド・セットを完全収録する。未発表曲はほぼ残り物、もとより曲の並びは工夫すべくもない。作品として初版に勝る完全版が出ることは希だ。ましてライヴ盤は。セカンドで本調子になったことは知れた。初版の10曲中7曲がそこから選ばれている。自主制作された店主の中平穂積氏の選択眼に大納得、初版にそって紹介させていただく。大半はパウエル愛奏曲、多くがルバート(自由速度)でソロ、インテンポ(一定速度)でテーマ~ソロ~ベース・ソロ~ドラムスとの小節交換~テーマという流れで演奏される。
《ルミネッセンス》はセカンドの幕開け。ルバートからファストへ、元ネタの《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》、同曲に基づくパーカー作《オーニソロジー》、ハリス作《ルミネッセンス》へと弾き進む。実に快調だ。それぞれの魅力とエッセンスを伝えて遺憾がない。
《サムバディ・ラヴズ・ミー》はセカンドの6曲目。ルバートからミディアムへ、遠い日々を振り返るかのようにしみじみと綴る。ペーソスすら感じさせる味わい深い逸品だ。
《ノー・ネーム・ブルース》はファーストの2曲目。毅然としてファストで切り出し、パウエル流のノリの良さで快走する。端正にしてバップ魂が横溢、ツボにはまりまくる。
《オブリヴィオン》はファーストの4曲目。ルバートからファストへ、もつれ気味だが気分はノリノリ、哀調を帯びたテーマから一段と高らかなハミングを交え実に楽しげだ。
《イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー》はセカンドの4曲目。ルバートからゆるめのミディアムへ、しっとりした情感を湛えたハリスならではのロマンチシズムにうっとり。
《チェロキー》はファーストの6曲目。ルバートから定石通りファストへ、指もほぐれ果敢に飛ばすこと飛ばすこと。勢いにまかせて弾き通さず最後はエレガントに着地する。
《グリーン・ドルフィン・ストリート》はセカンドの3曲目。パウエルの記録はない。ルバートからファストへ、軽やかなスイング感を伴う自然な歌心こそハリスの真骨頂だ。
《アイ・ガット・リズム~リズマニング》はセカンドの5曲目。パウエルの記録はない。速めのファストで《アイ・ガット・リズム》を半コーラス、あとは同曲に基づくモンク作《リズマニング》で通す。モンク流を披露したあとはキビキビしたタッチで駆け抜ける。
《イースト・オブ・ザ・サン》はセカンドの9曲目。アンコール曲だが、アルバムではラス前に置いた。最初からミディアムで、流れに身をまかせ気持ち良さそうに歌い綴る。
ハリス作《ナシメント》はセカンドの8曲目。本来のクローザーで、聴衆も巻き込んで盛り上がったこの曲をラストに。ルバートからボッサへ、メンバー紹介のあとコーラスの指導者でもあるハリスが唱和を促す。出来は上々、当夜の聴衆との交感のほどを物語る。
傑作とまでは言えないが後期の快作に数えていいだろう。たしかに脳梗塞後にタッチは甘くなったが、そのぶん味わいは一段と深まっている。ここではミディアム系に顕著だ。寛ぎと華やぎに満ち、演奏する歓びが伝わる。積み重ねてきた年輪のなせるワザだろう。あおらずダレず堅実なサポートに徹する稲葉と渡辺も好ましい。重戦車みたいなベースや重爆撃機みたいなドラムスはハリスには願い下げだ。これに限らず地味シブのハリス盤は耳の調子を測るバロメータになる。月並みに聴こえた日は耳の調子を疑ったほうがいい。
【1995年 選外リスト】fine>good>so-so>poor
The Sound of Nature Live at Shinjuku Pit Inn/Choi Sun Bae (Chap Chap/June 13) good+
Travellin' in Soul-Time/Mal Waldron (BVHaast/August 4,10,22) fine-
Maturity 4-White Road Black Rain/Mal Waldron (3361*Black/August 6) fine-, *1
Dada Da, Da/Han Bennink & Yoshisaburo Toyozumi (Chap Chap/October 1) good+
Konnichiwa! Japan/Climax Jazz Band (Tormax/October 15,16) good
://shopping.live@victo/Jon Rose (ReR Megacorp/October 23) fine, *2
Tales from the Forest/Ensemble Uncontrolled (Leo Lab/November 23) good+
Take Five/Manhattan Jazz Quintet (Sweet Basil/December 16) good+
*1: 2/4 on the date, 2/4 at studio.
*2: 1/28 on the date, 27/28 in Canada.
※評価は当該演奏のみ。
【収録曲】
Live at "DUG"/Barry Harris
1. Luminescence 2. Somebody Loves Me 3. No Name Blues 4. Oblivion 5. It Could Happen to You 6. Cherokee 7. On Green Dolphine Street 8. I Got Rhythm - Rhythm-A-Ning 9. East of the Sun 10. Nascimento
Barry Harris (p), Kunimitsu Inaba (b), Fumio Watanabe (ds).
Recorded at DUG, Shinjuku, Tokyo, on May 29, 1995.
【リリース情報】
1995 CD Live at "DUG"/Barry Harris (Jp-Ninty One)
1997 CD Live at "DUG"/Barry Harris (Ge-enja)
2006 CD Live at "DUG"/Barry Harris (Jp-enja)
2014 2CD Live at DUG Compelte Edition/Barry Harris Trio (Jp-Somethin' Cool)
※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。
2017/03/13 00:00