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WBC優勝に電車内で歓声も…春風亭一之輔の恥ずかしい凡ミス
春風亭一之輔・落語家
落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「WBC」。
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忙しかったり、流行りに乗り切れないのもあり、WBC1次ラウンドはろくに試合も観ずにいました。高座では「与那嶺要のホームスチール凄かったね!」とか「やっぱり神様、仏様、稲尾様ですね!」とか「怪童・中西太の場外ホームラン観た!?」なんて昭和の野球ネタでふざけること数日。75オーバーのお爺さんが微笑んでくれればそれでよし! 小さい頃から「よくそんな古いこと知ってるねー」とチヤホヤされてきた私の悪い癖ですね。準決勝のメキシコ戦、たいそう盛り上がったようですな(これくらいの受け止め方)。ダイジェストで観たら、知ってる選手が増えていました。侍ジャパンよくやってる! 令和野球音痴にも届いてる! その調子で決勝も頑張れ!(何様)
3月22日の決勝戦。朝8時からテレビでぼんやり眺め始めました。先発は今永昇太。「昇太」って春風亭以外になかなかいないよね。親御さんが笑点好きなのかな。戸郷、高橋宏斗、大勢なんてハタチそこそこで私の子ども世代じゃないか。それに大勢は今まで「おおぜい」かと思ってたよ。アメリカのサウスポーのサイドスローを見て「角盈男、最近見ないな」とか、ターナーって選手はやたらにモテそうだ……なんて余計なことを考えながら、また溜まった家事を片付けながらの「ながらながら見」。寄席があるので11時には家を出なければならず。じゃスマホのラジコで中継を聴きながら出発。
電車内はスマホで動画観戦の若者やら、イヤホンでラジオを聴いてるお爺さんやら、みんなWBC決勝戦に釘づけ。3対1で日本2点リードの八回表、ダルビッシュがホームランを打たれました。車内の8割が心配そうな顔をしています。私も空気を読んで「まずいなー」と思案顔。反撃を抑えて、八回裏が終わり、いよいよ九回表。ここを抑えれば日本の優勝……そこでいよいよ大谷翔平登場!
イラスト/もりいくすお
ランナーを一人出すものの、ダブルプレーでツーアウト。バッターは大谷のチームメイト、強打者トラウト。出来過ぎたシナリオだけどいいじゃない! 思わず息を呑む。……「さんしーんっ!!」。ラジオの実況アナが叫ぶ。こちらも思わずガッツポーズ。車内はまだ息を呑んだまま……なぜ喜ばん!? 優勝だぞ!
アナウンサーが続けました。「高橋宏斗っ!! 若さでトラウトを抑えましたっ!!」……また高橋出てきた!? なんでだよ? 下がったピッチャーがまた投げるなんて、高校野球かっ!? 「五回表が終わってスコアは3対1!」……。どういうことだよ!? スマホの画面を見るとなぜかラジコのタイムフリー機能によって試合が巻き戻され、私は五回表を聴いていたみたいです(2回目)。
そしてたまたまバッターが同じトラウトだったという。凡ミスに気づいた瞬間、車内で歓声。日本、優勝したみたい……。
だからね、私のWBCはまだ終わっていないんですよ! ちくしょう、タイムフリーめ! 今度聴いたらカネヤン(金田正一)が投げてるくらい、気を利かせてみろっ!(泣) とりあえず日本、おめでとう。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!※週刊朝日 2023年4月14日号
週刊朝日
2023/04/09 16:00