急増したフォロワーのみなさんからいただいたのは、「『ただちに健康に影響はない』とはどういう意味か」といったニュースへの質問のほかに、「コンビナートの火災によって放射能の雨が降るというのは本当か」「ヒマワリが土壌中の放射性セシウムの除去に効果があるのか」「原発監視カメラで爆発のような光が写ったが、なぜニュースで流さないのか」といった、フェイクやあいまいな情報、細かすぎる情報についての質問が多く、対応が遅れると「情報統制が行われている」「この画像を大手マスコミは決して伝えない」といった形でどんどん情報が拡散炎上し、分断が深まっていくのを感じました。

 特に難しかったのは、情報の真偽確認よりも、「どこまで対応するか」という判断でした。原発事故に関する真偽不明な情報は数多くあったため、そのすべてに真偽確認の取材をすると、ほかの原発事故対応の取材に手が回らなくなってしまいます。どの程度リツイートされていれば取材対応するかなど、試行錯誤しながらツイートを続けましたが、始めたばかりのアカウントでは発信力の弱さも感じました。従来の組織では「多くのフェイク情報をキャッチすること」「対応すべき情報を判断すること」「放送ではなくソーシャルメディアで発信すること」のどれにも対応できず、今後予想される大災害時の「情報爆発」には組織的な取り組みが必要だと提案し立ち上げたのが「SoLT」でした。

●「何が取材対象になるのか?」 

 チームがフェイク情報をキャッチする方法としては、SNSのトレンドワードや拡散しているツイートを常にチェックすること、フェイク情報をよく拡散しているサイトやツイッターアカウントを巡回するなどの方法をとり、対応するかどうかの目安としては、トレンドワードの上位にあった時間や、元になった記事のリツイート数などから柔軟に判断しています。

 最近ニュースにつなげた例としては、「大量の塩水を一気に飲んで腸内をキレイにするダイエット方法」が若い女性を中心に話題になっていることがわかり、医師への取材で「内臓出血などで命に関わるおそれもある」という意見も交じえて否定する記事を書きました。

 そのほかでは、アイドルグループ「私立恵比寿中学」のメンバーの病死について、まだ亡くなった原因がわかっていないうちから「インフルエンザのときに解熱剤を飲むと脳症になることがある」という情報が拡散した例や、昨年末には「海水温が急激に変化しているため近く大地震が起きる」という情報について、いずれも専門家への取材をもとに否定、詳しく解説する記事を書きました。このうち「塩水洗浄ダイエット」の記事は、1万4000回以上リツイートされて、美容や健康に関するフェイク情報への関心の高さがうかがえました。

 取り組みは進めながらも、前述の2つの課題=「新たな取材分野への展開が遅れがちな体質」と「ソーシャルメディアへの発信力の乏しさ」については、まだ途上にあります。昨年の「WELQ(ウェルク)」のフェイクニュース問題では、対応するかどうかを検討しているうちに、取材が出遅れてしまいました。ソーシャル時代のジャーナリズムに求められる意識の改革と発信力の強化を、今後も着実に進めていく必要があります。(NHK報道局遊軍プロジェクト担当デスク・足立義則)

※『GALAC(ぎゃらく) 5月号』より