樋口恵子さんは定年後の夫を指す「濡れ落ち葉」の命名者。女性の権利や高齢化社会の実相を鋭く突く評論にはファンも多い。『老~?い、どん!』はその樋口さんが自らの体験をまじえて語った興味津々の老いの生き方本である。

<87歳の私は、満身創痍ならぬ満身疼痛。痛いところだらけです><まさに私、ヨタヨタヘロヘロの「ヨタヘロ期」をよろめきながら直進しているのです>とぼやきつつ、冒頭から驚かされる。樋口さん、なんと84歳で家を建て替え、引っ越したというのである。

 建て替えた理由は老朽化による雨漏りと耐震性の問題だった。有料老人ホームに入るつもりで貯めた貯金はそれでパー。旧居から仮住居に移り、また新居に移るダブル引っ越しは予想以上の大仕事。<私は娘にせき立てられて、蔵書の仕分けをしました。娘は無情にも「半分にせよ」と責め立てます>。しかし<目標「半分捨てる」はとても達成できず、やっと三分の一ほどに終わりました>。

 いつも理路整然とした、あの樋口さんにして断捨離はできないのかと知ってホッとする半面、老いの現実を私はほんとうにわかってなかったなと思い知らされる。

 おひとり高齢者の食生活は簡素すぎて栄養失調になりがちだ。<女の人生には「調理定年」があるのではないか>。<食事づくりがなんとも億劫に、面倒になってくる>定年は80歳前後。なので<子ども食堂だけでなくシニア食堂ができたらいいな>。

 足腰が弱ってくると買い物は負担だが、自分の目で見て自分で商品を選ぶ買い物は自立の証し。<老いても一定の判断力がある限り、この買い物という社会参加と決定権を最期まで持たせてほしいと思います><青年よ大志を抱け、老年よサイフを抱け>だと。

 後期高齢者世代の方はたぶん「わかるわかる」だろう。もう少し下の世代は親御さんを思い出し「そういうことだったのか」と腑に落ちる点が多々あるはずだ。人生100年時代を、楽しく乗り切るための知恵が満載。行政を含めた介護関係者にもおすすめ。

週刊朝日  2020年6月12日号