画業60年を祝う個展を前にして著名な画家が急死。自ら「傑作」と言い放っていた遺作を預かる医師までが不審死を遂げ、刑事は画家の妻を調べ始める……。高級住宅街にある画家の邸宅や美術館を舞台に、絵の科学分析などを織り込んだミステリー。

 展覧会を担当する学芸員、由紀の家庭事情などを交差させ、刑事との2視点で語られつつ、惹きつけられるのは急死した画家の夫婦関係だ。フランスで認められた際の事情や、具象から抽象画へ転じた画家の背後に見え隠れする妻の存在。さらには前妻の娘たちが登場し、遺産騒動に発展するなど、スキャンダルな様相も見せる。

 本書は同じ大学を同期で卒業した女性2人の書き下ろし共作。解き明かされる芸術家と黒衣の結びつきは一見特異ではあるが、取り調べの心理劇が素晴らしい。(朝山実)

週刊朝日  2020年5月1日号