うなぎはなぜこんなに愛されるのか。それは「潔さ」ゆえだ、と本書を読んで思った。うなぎを食す。それは目の前のお重と向き合う一本勝負。大きな節目に大切な人と食べる意味がそこにあるのではないか。

 というのも、この短編集に登場する女たちはみな「潔さ」とはほど遠くて、うなぎを食べる時にやっと決断ができるのだ。うなぎ屋「まつむら」をこよなく愛する売れない役者、権藤をとりまく女の悲喜こもごもは、「うなぎ女子」という現代的な題からイメージするよりもずっとしみったれていて、重い。権藤という男も昭和の香りが漂う不器用な人間。どうにもならない人情のもつれが全編を通して描かれるなか、うなぎ屋「まつむら」という舞台が決断の場として際立つ。良い演劇を観た後のように、心にひりりと残るものがあった。

週刊朝日  2017年10月6日号