江戸時代を無邪気に礼賛する風潮に一石を投じる一冊。江戸は本当に人情味に溢れ、清潔で安全だったのか。遊郭はユートピアだったのか。著者が明らかにするのは現代からすれば顔をしかめたくなる現実だ。
 裏長屋は糞尿や生ゴミの腐臭が漂い、街中では肥桶を引っ繰りかえす事故が頻発していた。江戸っ子は「一日二回入る」ほどの風呂好きとも言われるが、1週間にせいぜい1回程度。治安が良かったわけでなく事件が起きても当事者同士の金による示談が多く、表沙汰にならなかっただけ。遊女も年季の途中で感染症で病死する者が大半だったとか。
 タイトルは過激なものの、江戸時代を暗黒時代として捉えたいわけではなく、視点はあくまでも客観的。当時の写真や戯作の挿絵などを用いながら、江戸の実態を浮かび上がらせている。

週刊朝日 2016年12月2日号