書店の料理本売り場には「作り置き」のレシピがたくさん並んでいる。最近の流行らしい。週末に数日~1週間分の料理をまとめて作っておき、平日の調理時間を短縮するのだ。男も女も誰もが忙しい時代の、生活の知恵というか窮余の策というか。
 そんななかダントツの売れ行きが『つくおき』である。「つくりおき」ではなく「つくおき」としたところが新鮮だ。「り」の1字を抜いただけなのに、手軽で楽しい感じになる。
 著者のnozomi(のぞみ)氏の職業はSE、つまりシステムエンジニア。他の「作り置き」本の多くが、料理研究家によるものであるのに対して、こちらはフルタイムで働くワーキングウーマンである。本の成り立ちも、レシピを記録したブログ「つくおき」を著者がはじめたことから。本書に載っている多数の写真も著者自身によるものだ。読者にとって等身大の感覚なのが、ヒットの理由だろうか。
 レシピには、料理の作り方だけでなく、調理に要する時間、保存できる日数(冷蔵/冷凍)、材料費、使う器具なども載っている。
 それと同時にこの本は、ライフスタイルの紹介でもある。たとえば、著者夫妻が平日、自宅できちんと夕食をとるのは週に平均4日。ふだんは作り置きしたおかずを組み合わせて食べる。保存期間の短いものは週のはじめに。金曜日は残り物を。週末に2時間半かけて10品から15品のおかずを作っておけば、仕事の帰りが遅くなっても心配ないし、「今日の晩ごはんは何にしよう」と頭を悩ませることもない。2時間半は長いという人には、90分の「ショートコース」11品もある。
 レシピは著者のサイト「つくおき」(http://cookien.com)でも紹介されている。だけどこの本を購入する人がたくさんいるということは、紙メディアの可能性を感じさせもする。欲をいえば、ページを開いたままにできるよう、糸綴じだったらモアベター。

週刊朝日 2016年2月26日号