本書は1989年、92年にそれぞれ刊行された第一歌集『びあんか』、第二歌集『うたうら』の復刊決定版である。
〈水浴ののちなる鳥がととのふる羽根のあはひにふと銀貨見ゆ〉(『びあんか』)
 私たちが日常的に目にしている、耳にしているもののなかに、著者にしか見えないもの、聞こえないものがある。それは羽根の隙間の銀貨だったり、蜘蛛の足音だったり、星座の匂いだったりする。そんなかすかな感覚を繊細に感じとってしまう感受性に、読者はひりひりとし、また、惹きつけられるのである。
〈雲ちぎれちぎれてあをき肉見ゆる明日なき鳥のくちばしのため〉(『うたうら』)
『うたうら』では、雲が途切れて見える青空を「あをき肉」と言うなど、荒々しさが加わる。繊細なだけではない、激しさを含んだ魅力を、この2冊を通して感じることができるだろう。山本健吉文学賞や若山牧水賞を受賞してきた著者が、25年前の「まるで別人のような」自分について綴ったあとがきも興味深い。まっすぐに歌を信じる、初々しい著者のすがたが浮かぶようだ。

週刊朝日 2015年3月20日号