大手出版社での“売れる本作り”に嫌気がさし独立、東京・自由が丘で出版社を立ち上げた著者は、東日本大震災を機に京都郊外にある城陽市を拠点にしようと思い立つ。地方から発信を続ける異色の出版社の愚直な挑戦と、本作りへの熱い想いを語るエッセー。
 ただの民家をオフィスにし、その一室でお客さんが駄菓子をほおばりながら好きなだけ本を読むという本屋も開業。編集者は著者一人、学生や全国放浪中の旅人など曲者ぞろいの素人スタッフがアイデアを出す。数字やマーケティングばかりで頭でっかちの従来のやり方ではなく、読者が面白いと思うものを肌で感じようと「身体的感覚」を研ぎ澄ます。
 当初、出した本が半年でたった2冊。経理から給料が出ないと言われて初めて、経営に最低限必要な刊行数に気づき、ウェブマガジンを始めたはいいが、配布用の紙版を印刷する段になって印刷会社も金も手配がつかず右往左往。おいおい、大丈夫か。だが一方で、熱意先行のこういう人が作るものにはわくわくする。何が出てくるかわからない、それが本を待つ側にはとても楽しい。

週刊朝日 2014年12月5日号