川村元気は映画『告白』や『悪人』などの制作で知られる若手プロデューサーである。2012年に刊行した初小説『世界からが消えたなら』は70万部を超えるベストセラーになった。
『仕事。』は川村によるインタビュー集。テーマは仕事、それも、「金のためではなく、人生を楽しくするための仕事」だ。それを川村は「仕事」ではなく「仕事。」と表記する。
 インタビュイーは「仕事。」で世界を面白くしてきた巨匠たちだ。山田洋次や倉本聰、宮崎駿、鈴木敏夫といった、川村の専門である映画や映像の分野の人もいれば、ノンフィクション作家の沢木耕太郎や、コピーライターの糸井重里、詩人の谷川俊太郎、音楽家の坂本龍一、写真家篠山紀信もいる。
 彼ら巨匠が30代のころ、どのように仕事をしていたのかを川村は聞いていく。含蓄のある言葉がたくさん出てくる。20代のぼくなら反発したような言葉が多い。
 たとえば山田洋次は脚本家、橋本忍の言葉を引きながら、師に学ぶということは、批判せずに全部鵜呑みにすること、そっくりなぞるように真似ることではないかという。あるいは、倉本聰も秋元康も、ほとんど寝ないで働いた20代、30代の経験が糧になっているという。坂本龍一も「勉強するってことは過去を知ることで、過去の真似をしないため、自分の独自なものをつくりたいから勉強するんですよ」という。
 20代のぼくは、師なんて持ちたくない、真似なんかするもんかと思っていた。睡眠時間を削るぐらいなら飢え死にしたほうがましだと思っていた。ぼくが大成しなかった理由がわかる。
 谷川俊太郎の言葉がズドーンと響く。いい詩を書くよりも「家族と一緒にきちんと生活をするほうが大事な人間だったんですよ」といい、「金が必要なんで、詩以外のことをやり始めた」という。「いい詩」を書いてきたからこそいえる言葉だ。

週刊朝日 2014年11月14日号