<テレビに出るのは、ある意味、魂を売ること><要するに、電波芸者なの。(略)別名、マスメディアの犬ね>。マツコ・デラックスはかつて知る人ぞ知る活字の世界の住人だった。それがいまではすっかりテレビの人気者。『デラックスじゃない』は活字からテレビに軸足を移したマツコが自分を語り、世間を語り、メディアを語った一冊である。
<アタシ、物心がついたときから「自虐」で生きてきたの>と豪語するだけあって、彼女の自虐には気合が入っている。しかもサービス精神満点。読者が質問しにくい疑問にもちゃんと答えてくれている。
 えーっと、マツコさんの女装はいつからはじまったんでしょうか。
 はじめて口紅を塗ったのは小学校3年生頃だったわね。高学年の頃には自分が好きなのは男性だと気づいていたわよ。<でも、「性別としての女性」になりたいと思ったことは一度もないの。(略)男の身体でいることは苦痛ではないし、何も不自由は感じない。頭の中も女じゃない。だけど、「女装」はしたいの>
 あの~、そのお身体で、不自由なことはなかったですか?
 身長178センチ、体重もスリーサイズも140のアタシ。大変だったことは、そりゃあるわよ。バスタブにハマって出られなくなったこともあるし、劇場の椅子にも飛行機のビジネスクラスの椅子にも入らないのよ。<何度、「体重を絞りたい」と思ったことかしら。これまで何度も「何とか手を打たなくては」とダイエットを試みたんだけど、結局、すべてリバウンドしたわ>
 メディアに露出しはじめた頃はおもしろい話を必死でつくっていたというマツコさん。でも<「自分じゃない自分」で勝負をしてしまったことについて、傷が消えないのよ><みんな、最初は盛るのよね>
 私生活を「盛らずに」語った結果、見えてくるのは、私生活はズボラだが人間的には真っ当なモラリスト・マツコの顔である。若い人に読ませたい。中学高校の図書館にぜひ。

週刊朝日 2014年7月25日号