今年の9月15日は、リーマン・ショック5周年だった。いや、お祝い事じゃないんだから、こんな言い方は不謹慎か。でも、サブプライム問題と投資銀行、リーマン・ブラザーズの実情は開いた口がふさがらないようなひどいものだった。ようするに、住宅ローンという借金の証文を価値あるものだと錯覚させ、転売に転売を重ねた大がかりな詐欺事件みたいなものだ。あるいは国家予算規模のババ抜き。
 真山仁の『グリード』は、リーマン・ショック直前のアメリカ経済界を舞台に描く大スペクタクルである。ダーティーなヒーローは鷲津政彦。そう、これは「ハゲタカ」シリーズの最新作なのだ。
 物語は2008年の春から始まる。すでにサブプライムローンのほころびが出始めている。しかし投資銀行、ゴールドバーグ・コールズの幹部たちは、自分たちが首まで肥溜めに漬かっていることに気づいていない。そんななか、米国人の誇りのような巨大企業、アメリカン・ドリーム社は経営が急速に悪化している。
 鷲津はアメリカン・ドリーム社の買収を目論むが、「市場の守り神」の異名を取る富豪、サミュエル・ストラスバーグが立ちはだかる。しかも敵は国家権力まで動員して圧力をかけてくる。絶対的に不利な状況を、鷲津はどうやってひっくり返すのか。
 カーチェイスや銃撃シーンはないけれど、これは金融界を舞台にしたアクション小説だ。まさに手に汗握る展開。しかも、娯楽を満喫しながら、米国金融界の原理とその腐敗ぶりについてしっかり勉強できる。新聞の経済面の上っ面だけ読んでいたのではわからないことが、ここにはリアルに描かれている。リーマン・ショックって、こういうことだったのか!
 これは、欲をかきすぎると罰が当たるぞ、という勧善懲悪の物語などではない。破壊と再生の果てしない繰り返しが資本主義の運命なのだという、冷酷で残酷な叙事詩である。

週刊朝日 2013年11月29日号