バカバカしいといえばいえるが、「スター・ウォーズ」ファンはそりゃあ買うよね。シスの暗黒卿もおうちではただのパパ。『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』はダース・ヴェイダーとルーク・スカイウォーカー父子のごく平和な家庭生活を描き出した子育て絵本だった。
 同じ作者と訳者による『ダース・ヴェイダーとプリンセス・レイア』(ジェフリー・ブラウン作、とみながあきこ訳)はその続編(どうせなら「レイア姫」と表記して欲しかったわ)。前作で幼いルークのやんちゃぶりに振り回されたパパは、今度は幼女からティーンにまで成長する娘のレイアにとことん翻弄される。
 父は娘が心配で仕方がない。ヘソ出しルックの娘を見れば〈わたしがここに来たのは、そのズボンをひっぱりあげるためだ〉。娘がケータイをしていれば〈彼らの送った設計図がどうなったのかを知りたい〉。しかし、レイアも反乱軍である。負けてはいない。父の制止をふりきってインペリアル・シャトルで出かけるわ、オビ=ワン・ケノービに借金は頼むわ。彼氏のハン・ソロとのことで彼女の頭はいっぱいなのだ。父はおもしろくない。ふたりのキスシーンを目撃した父は〈やめろぉぉ〉と叫んで娘の彼氏をカーボン冷凍にしてしまう。
 「スター・ウォーズ」はギリシャ悲劇の「オイディプス王」にはじまる「息子の父親殺し=父と子の確執」というモチーフを含む物語である。4歳のルークの物語は父が息子をかまってやれるのは幼児のうちだけ、という暗示なのかも。一方、娘はいくつになっても父の監視を逃れられない。だから思春期になると父娘は必ず対立するのだ。
 でも、インパクトはいまいちだったかな。父の権威も威厳も失墜した現在ではこのくらいのパパはどこにでもいて、鉄兜で武装した外見とのギャップもべつに驚かない。
 笑ったのは唯一ここ。ある日、娘は父に質問するのだ。〈作文の宿題がでたの……あのね、パパのお仕事は具体的になんなの?〉。

週刊朝日 2013年5月31日号