60冊にも及ぶ日本の歌人のアンソロジーの中の1冊で、僧侶たちの歌ばかりを集めたユニークな和歌選集である。貴族たちによる勅撰和歌が中心とすれば、僧による歌はその周縁にあるもので、その多様性が魅力だろう。
 「山の端のほのめく宵の月影に光もうすく飛ぶ蛍かな」と、ありのままの自然の美しさを詠い、そこにこそ本然があるとした道元禅師、「跳ねば跳ねよ踊れば踊れ春駒の法の道をば知る人ぞ知る」と踊り念仏を鼓舞する一遍上人、「釈迦といふ悪戯者が世に出でて多くの人を惑はするかな」と皮肉る、反骨にして風狂自在の一休和尚など、それぞれの個性と信念が反映され、面白い。
 さらには、「思はじと思ふも物を思ふなり思はじとだに思はじや君」といった禅問答のような歌から、民衆への布教のためか、わかりやすく説教じみたものまで、実にさまざまな歌が集められている。
 それぞれの歌に付けられた2~4ページほどの解説によって歴史的背景や詠み手の人となりもわかり、読み物としても楽しめる本だ。

週刊朝日 2012年11月30日号