終戦から67年。高層ビル群が広がるこの大都市は、戦時中の若者の目にはどう映るのだろうか。
 特攻隊員・陣内武一は、米軍空母に向かった直後、時空を超えて、67年後の東京で目を覚ます。そこで、アルバイトやボランティア活動で日々をやり過ごし、そんな状況を社会のせいだと義憤を抱く田嶋慎太と出会う。
 話が噛み合わないまま、行動を共にする二人。陣内は図書館で戦争の結末に涙し、現代までの流れを知る。ある晩、酔った慎太の話から、日本に迫る危機に気づく。
 週刊誌記者を経て作家となった著者が「作家生命を賭けた」という本書。出撃前夜の宴席での特攻隊員の思いや、零戦で米軍の敵艦に立ち向かう緻密な描写に冒頭から圧倒される。一方でフリーターの目を通して、現代の日本が抱える問題や閉塞感を浮き彫りにする。各々にリアリティを持たせつつ、エンターテインメントとして読み手を引き込んでいく。中でも、筋の通った男気が印象的な陣内は魅力的なキャラクター。重くて大きなテーマに真正面から取り組んだ意欲作。

週刊朝日 2012年9月28日号