2018.12.31 コミックマーケット 東京ビッグサイト(撮影:小野寺宏友)
2018.12.31 コミックマーケット 東京ビッグサイト(撮影:小野寺宏友)

 写真家の小野寺宏友さんがビフォー&アフターコロナの東京を写した写真集『東京群集』を出版した。小野寺さんに聞いた。

【小野寺宏友さんの作品はこちら】

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 小野寺さんが東京の群集をテーマに撮り始めたのは3年前。それが結果的に、コロナ禍で一変する街の様子を克明に写した貴重な記録となった。

「東京群集」とある表紙にはまさに人、人、人。

「たぶん、十数万人はいたと思います。大みそか、東京ビッグサイト前のコミケ(コミックマーケット)の入場待ち。名物なんです」

 そして、「ひっくり返して、裏表紙を見てください」と言う。

「おーっ」。思わず声を上げてしまう。まったく同じ場所なのに見事なくらい人の姿が少ない。画面手前には朝日を浴びてジョギングをする男性のシルエットが写り、背後の閑散とした様子が浮かび上がる。

 表紙は2018年の暮れに撮影したもので、裏表紙は20年の同じ日のほぼ同じ時刻という。

■望遠レンズで誇張することなく撮影

「すごすぎて、現実の光景には見えないですね」と、感想を伝えると、「色をわざと派手にしたり、影の部分をなるべく明るく起こして画面全体をフラットに見せていますから、CGじゃないか、と思うくらいに見えますね」。

 派手な写真の色は好きだったフィルム、コダック エクタクローム E100VS(すでに販売終了)の発色に合わせたもの。

 ふつう、群集を写真で表現する際は、望遠レンズの「圧縮効果」を利用することが多い。

「それで『こんなに人がいっぱいいるぞ』って、撮るじゃないですか。でも、それを一切やっていないんです」

 それどころか、正反対に12ミリという超広角レンズで写しているので、誇張ではなく、そこにほんとうに膨大な人が集まっていることが伝わってくる。

 ただ、群集の中に入り込んで撮影しているようにも感じられるが、実はそうではないという。

「アウトサイドからの視点。群集の最後尾を探して、一脚の上にカメラを高くかかげて、すごく引いて、群集を観察する目で撮っている」

 そんな視点ゆえに、写真集では人の集まりを「群衆」ではなく、「群集」と表記している。

2020.12.31 東京ビッグサイト(撮影:小野寺宏友)
2020.12.31 東京ビッグサイト(撮影:小野寺宏友)

■「写真家として、人を撮らないのはどうよ」

 ちなみに、小野寺さんの名前を知らない人でも、作者が写した写真はどこかで見たことがあると思う(特に子どものいる家庭では)。

 小野寺さんの本業はいわゆる「ブツ撮り」で、リカちゃん人形のパッケージ写真を約25年間、「しまじろう」の『こどもちゃれんじ』(ベネッセコーポレーション)の表紙を約20年撮り続けてきた。

 一方、深夜の解体作業現場に置かれたパワーショベルがきっかけで撮り始めた「シンヤノハイカイ」シリーズや、夜の都会の片隅で人知れず咲く「野良桜」シリーズなどを発表してきた。

 そんな作品を見続けてきただけに、群集を撮っていると知ったときは驚いた。

「撮影に出かけるのはいつも夜中で、『絶対に人は撮らねえ』、なんて言っていたのに、『なんでなんだ!』という(笑)」

 写真集のあとがきにもこう書いている。

<私はヒトが苦手だ。ヒトなんてあんな恐ろしいモノよく撮れるな! と他人の写真を見て思っているくらいだ>

 一方、「写真家として、人を撮らないのはどうよ、と思っていた。で、群集なら撮れるかな、と」。

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ひと駅違うと、人がぜんぜん違う