撮影:森下大輔
撮影:森下大輔

写真家・森下大輔さんの作品展「Dance with Blanks」が4月16日から東京・赤羽橋のギャラリー、PGIで開催される。森下さんに聞いた。

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 森下さんは喫茶店の小さなテーブルをはさんで作品を見せながら、「ようやくここにたどり着いた」と言う。

「けっこう登ってきたかな、という気はしますね。昔は『自由に表現したい』なんて、恥ずかしくて言えなかったんですけれど、ここへきて、素直にそれが言えるようになった。写真を使って自由な空間をつくりたい、それを表現したい、しあわせになるんだ、と」

 そう真顔で言われると、ちょっと照れくさいけれど、森下さんの作品づくりへの真っすぐな気持ちが伝わってくる。

撮影:森下大輔
撮影:森下大輔

■「純粋に写真を撮る」というスタイル

 作品にテーマはない。そこに写し出されたのは高台から見た遠くの風景、ビルの壁面、トンボやハト……。何を写したのかわからないものもある。撮影地もばらばらだ。

「やりたいことは単純で、ただ写真を撮りたい。それがいちばん根っこにあるんです。だから被写体やテーマを設定しないで、『純粋に写真を撮る』というスタイルでずっとやってきた」

 それについて、森下さんはこう説明する。

「例えば、ワンちゃんを撮って、かわいいね、とか。きれいな花を撮って、ああ、バラだね、みたいなことじゃなくて。『ん、こんなふうに見えるのか』『これって何だろう? 名づけられないなあ』、みたいな。それって、けっこう写真でしかできないことだと思うんです。この世界を撮って、ハイって、見せると、『なんか、自分が知っているものとは違うなあ』ということがあるじゃないですか。それがいちばんやりたいことなんです」

 パチリと写真を写すと、奥行きのある3次元の世界が2次元の平面となって現れる。その間には構図やピント、シャッターを切るタイミングなど、さまざまな要素がある。それらを変えることによって写真の見え方は無限に変化する(森下さんはこの関係性の変化に仏教の教え「空」との共通点を見いだす。それについては後述する)。

「きれいだなあ、という感覚から入り込んで、別の世界に抜ける」という感覚があり、そこに「何かわけのわからないものが生まれたなあ、というよろこびを感じる」のだという。

「いい写真が撮れたときって、自分が撮ったんじゃなくて、写真が勝手に生まれてくるみたいな感覚を覚えるんです。自分が回路というか、通り道になったような気持ちよさがある」

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