撮影:岸幸太
撮影:岸幸太

低いところからだと、いろいろなものが見えやすい

 ちなみに、岸さんは日常的に「肉体労働をしています。床剥がし。あまり人には勧められないですけどね。疲れるし(笑)。だから、普段着のニッカボッカとTシャツで撮ることもあります」。

 そのうえで、岸さんは釜ケ崎の住人を「やっぱり、他者」と言う。

「もちろん共感できるような部分もあるんだけれど、でも、こっちがいろいろな思いを抱いて撮ったとしても、やっぱり、そのとおりには写らない。それを見せたい」

 岸さんは、体を使ういまのなりわいが「精神的にはとても合っている」とも言う。「やっぱり、頭を使うだけじゃなくて、体を使うことがね」。

「自分の方法論というか、肉体労働をしている私は、写真家でもある。そのことにすごく自覚的になってきた。地に足がついてきた。まあ、いま考えると、ですけれどね」

撮影:岸幸太
撮影:岸幸太

 釜ケ崎を撮り始めたころは「確かな思想みたいなもの」はなかった。

「インテリの人たちから『岸さんはどっちなんだ?』『いまの政治について、どう考えているんだ?』と言われても、そのころは何も答えられなかった」

 しかし、いまは違う。だからといって「こういう街だから、何か告発してやろう」という気持ちはあまりない。いや、さらに深い。

「抵抗。そう言うと、ちょっと言葉が強すぎますけれど、いまの社会にこういう人たちがいる、こういう街があるんだ、と。自分が生きているうちはそういう場所に目を向けていきたい。低いところからだとすごく見えやすいですから。いろいろなものがね」

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】
岸幸太写真集『傷、見た目』(発行:写真公園林、発売:ソリレス書店、A4判、布クロス装上製、232ページ、モノクロ写真204点収録、10000円・税別)。写真展会場、書店のほか、photographers’galleryのホームページで購入できる。

写真展「傷、見た目」-Part 2-
photographers’gallery 2月23日~3月19日