一心に祈る手に目が引きつけられる。昔、この地は本当に秘境だった(撮影:栗田哲男)
一心に祈る手に目が引きつけられる。昔、この地は本当に秘境だった(撮影:栗田哲男)

中国に17年。会話はネイティブ並みに堪能

 栗田さんが初めてこの地に足を踏み入れたのは2007年。「もともとは旅行で行ったんですけれど、現地の人に教会があって、キリスト教徒が住んでいると聞いて、そんなのがあるんだ、と思って訪ねてみたんです」。

 ちなみに、栗田さんは写真家になる前は自動車部品メーカーに勤め、海外駐在員として中国に17年間滞在し、現地法人社長も務めた。会話はネイティブ並みに堪能という。

「今ではたまに旅行でこの教会を訪れる人もいるんですけれど、基本的にはミサなどはなかなか見られない。というか、『撮影お断り』とか書いてあって、観光で行くとけっこう嫌がられるんです。神父さんにお会いして、宗教に対するリスペクトや、いろいろ学びたいという気持ちをきちんとお伝えしたうえで、撮影をお願いして、許可をいただきました」

 教会の中、ミサの様子を写した作品を見ると、床には赤いカーペットが敷かれ、青い装飾を施したアーチが並ぶような柱が祭壇へと続いている。その両側には長椅子が置かれ、人々が神父の声に耳を傾けている。厳粛な雰囲気はどこの国の教会でも変わらないものだな、と思う。男性が昔の人民服をイメージさせる黒っぽい色の服装をしているのとは対照的に、女性は原色系のカラフルな帽子をかぶっているのが面白い。

チベットの習慣とクリスマスが一緒になっている

 別の作品では信者の一人がごつごつした木の根のような手のひらを合わせ、一心に祈っている。その真剣さが伝わってくる。「農作業での厳しい生活。それを表したくて、手に焦点を合わせたんです」。

 クリスマスの様子を写した作品もある。こちらはいかにも楽しそうだ。テーブルの上にはケーキのほか、リンゴやザクロが並んでいる。画面からはカメラの存在が感じられず、栗田さんがこの場に完全に溶け込んでいることがうかがえる。

「クリスマスミサが終わった後にみんなでご飯を食べてケーキを食べて、それから輪になって歌って踊るんです。輪になって踊るのはチベットではよく見られる風景で、その習慣とクリスマスがいっしょになっている。実はここには仏教徒の人も混じっているんです。本当に仲よく、宗教の違いは関係なく、いっしょにクリスマスを楽しんでいる。そういうところも面白くて」

 さらに、こんな話も聞かせてくれた。

「仏教徒が亡くなったときは、仏教徒がお葬式のお経をあげるんですけど、キリスト教徒が集まった人のためにご飯をつくるそうです。その逆も同じ。葬式は特に宗教的な意味合いが大きいですけれど協力している。協調を保って暮らしていることがよくわかるエピソードです」

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