「一日中土砂降り。やまない。カメラが壊れる? そんな心配を初めてした。気づいたら、カメラをギュッと抱きしめていた。公園のテーブルが唯一、色があった。くたびれたリンゴがいた」
「一日中土砂降り。やまない。カメラが壊れる? そんな心配を初めてした。気づいたら、カメラをギュッと抱きしめていた。公園のテーブルが唯一、色があった。くたびれたリンゴがいた」
プリントに徹底的にこだわる理由

 プリントの良さとはどこにあるのか。

「やはり生ものであることかと。リアルに作品を見ることと、画面を通して見ることは距離感が違うように感じます。画像は透過物のような感覚があり、最後まで精魂込めて仕上げたプリントには、撮った時の情景だとか、息遣い、心境だとか、すべてが詰まって表現されていると思うんです」

 佐藤さんの作風は「クリエイティブスナップ」。日常をありのままに切り取るスナップ写真であり、もちろんトリミングはしないのだが、幾何学模様的な美しさや、造形美、配色の妙を瞬時に捉えている。

「テレビをつけると暗いニュースばかりで、私もそれらを吸収して嫌だったんです。日本の写真は暗い写真がウケるじゃないですか。生きていることだけでもつらいのに、写真までつらさを引きずりたくない。きれいな風景にゴミがあったとしても、ドキュメンタリーやスナップならゴミも撮るじゃないですか。そこで私は全部外してきれいな光と色を撮り続けたんです。非現実的な世界観を写したかった。でも、それも現実。『現実の中の非現実性』を現実として表現できるのも写真ならではの良さだと思います」

「画角に関しては迷うことはないですね。迷っている時点で作品として成立していないかなと。大事なのは直感。撮っているときに「これだ」という瞬間があるんです。直感こそ写真の魅力だと思うんですよね。その直感力を得るには自分の「軸」がないといけない。写真コンテストで評価される人にも「軸」があると感じます。日の丸構図とか、黄金比とか、構図でもいろいろな考え方がありますが、自分の「軸」さえあれば、あとは自由に撮っていいんじゃないでしょうか」

「帰る2時間前からパッと晴れた。これを、この光を待っていたのに。空港で帰りの飛行機を待つ。結局、虹は一度も見れなかった。ま、でも、いいか」
「帰る2時間前からパッと晴れた。これを、この光を待っていたのに。空港で帰りの飛行機を待つ。結局、虹は一度も見れなかった。ま、でも、いいか」

 佐藤さん自身も24歳で資生堂宣伝部から独立して以来、フリーランスの写真家として活動するなかで、撮影手法についても苦悩の日々が続いたという。30代前半の頃、母親の勧めで始めた太極拳によって、「心と体のバランスを整える」ことができたという。無為自然。この言葉の知ることで「私の技法が変わらなくなった」という。

 それは写真展のタイトル「no rain no rainbow」にも表れているかもしれない。

「今回ハワイに行ったのは太陽があるからなんですよ。ところが、ずっと雨。2日間は土砂降りでした。5分間も晴れが続かないなか、現地のコーディネーターが『no rain no rainbow』とつぶやいたんです。そこからハッと切り替えて、無心になって撮りました。写真撮影では『雨には雨の撮り方がある』と言いますが、その言葉、本当に大嫌いなんです。大事なのは撮り方じゃないんです。自分のイメージと全然違う天候に出くわすことは、今回の私に限らず、多くの方も経験があると思うんですよ。でも、置かれた状況で開き直って直感的に撮ることってとても大切なことだと思います」
                     (文・AERA dot.編集部)

(プロフィール)
佐藤倫子(さとう・みちこ)
資生堂宣伝部写真制作部退社後、フリーランスに。独自の撮り方で魅せるクリエイティブスナップ作品を都内中心に個展・グループ展を開催。主に化粧品などの広告写真を撮り続けてきたことが基本となり、作品にも「美」のある写真をつくり続けている。写真集に『HOPSCOTCHINGS』『知のフラグメンツ』『MICHIKO2018 ワタシテキ』。ニッコールクラブ顧問。
http://www.rin-photo.com

【MEMO】佐藤倫子写真展「no rain no rainbow」
2020年9月9~13日 11:00~19:00(日曜17:00まで) ピクトリコ ショップ&ギャラリー表参道(東京都渋谷区神宮前4-14-5)