愛媛県内での保護活動をしているSさんは、以前から青島の状況に危機感を覚えていた。島民の平均年齢は70歳を超え、島で中心となって猫たちの面倒を見ているKさん夫妻も、負担の大きさと体力の不安を感じ始めている。もしもいつか本当に無人島になってしまったら、猫たちはいったいどうなってしまうのか。


餌をねだりに人間に近づく(撮影/瀬戸内みなみ)
餌をねだりに人間に近づく(撮影/瀬戸内みなみ)

「みんなで山のなかに入って小鳥やネズミを捕って暮らす、なんてことはあり得ません。ひとが食べものをやるから猫は生きていけるし、だからあんなに増えたんです」

 とSさんはいう。

 もし島からひとがいなくなっても、猫たちは誰かがやって来て、食べものをくれるのを待ち続けるだろう。これまでずっとそうしてきたのだ。そして年をとった猫、幼い猫、病気の猫と順々に、飢えて倒れ、死んでいくのだろう。しかし、そんな光景を見たい人間が、いったいこの世の中にいるだろうか?

 しかも今や、青島は猫の島として世界中から注目を集めているのだ。

 ほんの周囲4キロメートルの島のなかで、人間が暮らしていける平地は海沿いのわずかな場所しかない。そこに猫たちも密集して暮らしている。海に隔てられているから周辺地域との交流はなく、当然猫たちの間では近親交配が進むことになる。これによる健康上の問題も顕著になっていた。子猫たちのなかにはひょろひょろとして手足がか細く、目に異常のあるものも少なくない。たくさん生まれてもバタバタと死んでいくのだという。それでも猫たちは交尾し、子どもを産む。

春に生まれた子猫(撮影/瀬戸内みなみ)
春に生まれた子猫(撮影/瀬戸内みなみ)

 だからまずは、猫がこれ以上繁殖して増えないよう、不妊・去勢手術をしなくてはいけない。それも全頭、一斉にだ。一対でもつがいが残れば、驚くほど繁殖力の強い猫はそこからまたあっという間に数を増やしてしまう。

 そう考えたSさんは4年かけて粘り強く島民を説得し、大洲市に働きかけ、県内外に協力を呼びかけ続けた。そしてようやく昨年、大洲市は青島の猫問題のために予算を計上したのである。そして動物愛護団体「公益財団法人どうぶつ基金」と協力し、市のプロジェクトとして猫たちの一斉手術を行うことになったのだ。

次のページ
作業するボランティアから悲鳴が…