部落解放同盟と被差別部落の出身者が、全国の被差別部落の地名をまとめた本の出版などはプライバシー侵害だとして、出版社側に出版の差し止めなどを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は「差別されない権利」を初めて認めた。
6月28日午後。東京高裁の門前に出てきた100人近い原告らは「旗出し」を待っていた。「旗出し」とは、話題になった裁判の判決言い渡し後、弁護士らが裁判所前に出てきて「勝訴」とか「不当判決」などと書かれた紙を掲げることだ。形状から「びろーん」と呼ぶ人もいる。
約20分後、弁護士らが出てきた。山本志都、中井雅人両弁護士が「勝訴」「差し止め範囲大幅拡大」と書かれた2枚の紙を掲げた。原告である部落解放同盟の西島藤彦委員長が、ハンドマイクを持ち「削除される対象は、一審・東京地裁判決時の25都府県から31都府県に拡大しました」と説明。不安そうに待っていた原告らの表情がやわらぎ、拍手も起きた。
原告らが「旗出し」を待ったのは、直前まで大法廷の傍聴席で土田昭彦裁判長が判決を読み上げるところを聞いてはいたが、その意味するところがよくわからなかったからだ。
しかも2021年9月27日に言い渡された一審・東京地裁判決のときは、結論こそ原告勝訴で、旗出しでも弁護士らは今回と同様に「勝訴」という紙を掲げたものの、原告代理人の河村健夫弁護士が「きわめてわかりにくい、摩訶不思議な判決」と評するような内容。指宿昭一弁護士も「微妙で煮え切らない内容で、大勝利と呼べる判決ではない」と渋い表情だった。これに対して今回の東京高裁による控訴審判決については、原告や弁護士らが「想像したよりずっといい判決」「大幅な勝利」「画期的だ」と喜ぶ結果となった。
2年前の地裁判決と今回の高裁判決では、何が変わったのか。
原告は部落解放同盟と同盟員ら約230人。川崎市の出版社と経営者ら2人を相手取り、被差別部落の地名をまとめた書籍の復刻出版禁止と、インターネット上に掲載した地名リストの削除を求めて、2016年4月に東京地裁に提訴していた。