5月26日に公開された映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(原作/荒木飛呂彦、監督/渡辺一貴、主演/高橋一生)。ドラマ版に引き続き、劇中の音楽は“菊地成孔/新音楽制作工房”が担当する。音楽家、文筆家、ラジオパーソナリティーとして才能を発揮している菊地。新音楽工房は、菊地の私塾である「ペンギン音楽大学」の生徒のなかで、特に優れたセンスや技術を備えたメンバーによるギルド的なクリエイター集団だ。菊地成孔が、“先生と生徒”“師匠と弟子”ではなく、フラットな関係の音楽制作集団を立ち上げた理由とは?
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■きっかけは、ドラマ『岸辺露伴は動かない』だった
――新音楽制作工房は、菊地さんが長年続けてきた私塾・ペンギン音楽大学の生徒のみなさんで構成されているそうですね。
はい。ペンギン音楽大学では、サックス、音楽理論などを教えているのですが、突然変異的にとんでもない才能を持った生徒が現れるんですよ。たとえばどちらも2003年にリリースしたDC/PRG(菊地が主宰していたバンド/2021年に解散)の「構造と力」、SPANK HAPPY(菊地と女性ボーカリストとによるユニット)の「Vendome,la sick Kaiseki」の打ち込みおよびマニピュレーターは同一人物で、ペン大(ペンギン音楽大学)の生徒です。
その後、基礎科ではなく、さらに高度な内容を教える“大学院”を作りました。モダンジャズの楽器演奏を教える「BBLS」(ビーバップ・ロー・スクール)、そしてDTM(デスク・トップ・ミュージック)に特化した「BM&C」(ビートメイキング&コンポーズ)です。後者は課題に沿った楽曲を提出してもらい、全員で批評し合うクラスなんですが、そこでも優れた才能を持った人が少しずつ現れてきた。日本初のタイプビートの制作サイト「MCKNSY」(マッキンゼー)を立ち上げたメンバーも、「BM&C」の生徒なんですよ。
当初は「20人のクラスに2人か3人、プロとして稼働できる人がいる」という割合だったのですが、3~4年前から突如として、「クラスのほとんどがすごい」という状況になった。異常値の要因はよくわからないのですが、「作風や考え方は全く違うけど、全員がプロ級のクオリティーを持っている」ということになったんです。和声理論やリズムに関して僕の薫陶を受けている人ばかりだから、当初は僕の作品の影響を受けている部分もあったんだけど、途中からそれもなくなって。そうなると先生と生徒の関係ではなくなるんですよね。ちょうどその時期に、ドラマ『岸辺露伴は動かない』の劇伴の依頼がきたんです。