そして6月初め、「愛甲は大酒飲みで門限破りの常習」という理由で2軍落ちを命じられる。酒が一滴も飲めないことを告げると、バレンタイン監督は「すまない。私は権利がないため、お前を守ってやれない」と詫びたという。

 そのまま2軍でシーズンを終え、チームの若返り方針から戦力外通告を受けたが、捨てる神あれば拾う神あり。かつて打者転向時に指導を受けた高畠導宏コーチから「中日で一緒にやらないか」と声がかかる。星野仙一監督も「投手出身で肩は強い。足もあるので外野もこなせる。大豊(泰昭)が故障したときには一塁も守れる」と実力を高く評価。秋季キャンプ直前の11月4日に無償トレードが決まった。

「戦力外通告を受けたときはショックだったが、自分はまだ野球をできる力を持っている。もう一度原点に返って自分のフォームを取り戻したい」と新天地で再出発を誓った愛甲は外野、一塁、代打の切り札として幅広くチームに貢献。38歳まで現役を続けている。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)

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久保田龍雄

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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