――別れようと決意した。

 ええ。中学時代からの友人でマンションを買うときもお世話になった司法書士に相談し、教会の牧師にも相談しつつ、行動方針を決めて、直接彼に話をしました。祖母、母、兄が逝ったときにはパートナーとして支えてくれた人でしたが、出ていってもらいました。

――理研の契約は60歳を超えると1年ごとですか?

 いえ、プロジェクトリーダーとして5年契約を結びました。5年でさらに使いやすい、できれば「世界初の可搬型」を開発し、社会の役に立てるようにしたい。それだけでなく、サイエンスの研究も展開したい。宇宙や量子コンピュータ―につながる物理の基礎に関わるサイエンスです。その研究に小型中性子源システムでアプローチするのは私の念願で、2年前から始めました。これで成果を出すのが私の悲願です。

勢ぞろいした理研の中性子チームのメンバー=2022年12月、大竹さん提供
勢ぞろいした理研の中性子チームのメンバー=2022年12月、大竹さん提供

 そう思ってくると、別の課題に気づきました。それは私自身の「体力」。研究開発を加速させるには「老化」という足元の課題を克服しなければならない。何かしたいと思い、パーソナルトレーナーを探しました。非常にいい先生が見つかって、トレーニングを受けながら食生活も変えました。

 それまでは、時間が取れないから食に対する時間と労力を極力省き、99%外食かコンビニかレトルト食品でした。60歳を過ぎてから、人間、ちゃんと食材を調理して食べて、体も大事にして、という基本を教えてもらって、実践しているところです。今やこのトレーナー先生の週2回のトレーニングがストレス軽減となり、すべての生活リズムの要になっています。

■物理と音楽、根本的に好きなことを

――良かったですね。

 はい。良かったといえば、私は両親が高校教師で良かった。高校時代、聖歌隊の隊長をやりませんか、という話があったとき、音楽を専門に勉強していない私がやると大学に現役合格できないと悩んだんですが、2人とも「10代のこの時期でないとやれないことがある」と背中を押してくれた。それで高2のときは音楽ばっかりやって、とても楽しかった。

 お陰で浪人して、物理が好きでしたけど、受験勉強ではない物理ばかりやってしまったので、早稲田に合格したときは一生分の運を使ったと思いました。その後に出会った早稲田の先生も素晴らしかった。

 実は6年ぐらい前から、高校時代の後輩が聖歌隊のときの先生に習いたいと言ってきて、私も月に1回、一緒にレッスンを受けるようになりました。コロナで中断しましたけど、再開したところです。

 物理と音楽、これが私の根本にある大好きなことです。物理研究を進めて工学分野の多くの方たちと一緒に共通の目標に向かって仕事を進めつつ、サイエンスの研究に自分たちの装置で取り組めて、さらにプライベートでは音楽も再開できて、恵まれているなぁ、と実感しています。

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高橋真理子

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ)/ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネータ―。1956年生まれ。東京大学理学部物理学科卒。40年余勤めた朝日新聞ではほぼ一貫して科学技術や医療の報道に関わった。著書に『重力波発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ』(新潮選書)など

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